あまり話題にならなかった法改正
今国会(第213回常会)で、生活保護法改正と生活困窮者自立支援法改正が可決成立しました。
コロナ禍を経て、両法が対象とする生活保護制度や
生活困窮者自立支援制度を必要とする人は増加しています。
特に、2020年〜2022年には、「特例措置」などにより、
緊急小口資金等の「貸付」や「住居確保給付金」の利用者が急増し、大きな変化がありました。
緊急時の「特例措置」の成果や課題を受け、制度自体の「本体」を
どう変えていくのかといった論点が議論されるのかと思っていましたが、限定的な改正でした。
今回の法改正に先立ち、2022年6月より
厚労省の社会保障審議会「生活困窮者自立支援及び生活保護部会」が再開され、
2022年8月24日には、僕も有識者ヒアリングとして登壇し、以下の内容について提起しました。
●生活保護について
・生活保護を入りやすい制度へと移行することが必要
・扶養義務の撤廃、オンライン申請等の実装等を実施するべき
・スティグマ軽減に向けた広報や啓発の取り組みの強化をおこなうべき
●生活困窮者自立支援制度、重層的支援体制整備事業、求職者支援の範囲について
・対人援助機能の強化と総合相談体制の確立が必要
・地域の支援機関(官民)との連携・協働体制の確保が必要
・給付付き職業訓練の拡充などの施策の充実をおこなうべき
●生活保護の手前の「給付」「所得保障」の仕組みについて
・最低賃金の上昇など、就労収入を上昇させる施策が必要
・所得を底上げするような給付やサービスの大幅な拡充をおこなうべき
(恒久的な「住宅手当」、児童手当の拡充、最低保障年金など)
コロナ禍で見えてきたのは、生活保護を利用しやすい仕組みに変えていくこと、
既存の仕組みの要件等を緩和していくこと、
生活保護の手前に「給付型」の施策を整備していくことの必要性です。
実際の改正法では…
実際に法改正では、上記の提案はほとんど取り上げられることはなく、下記の内容となりました.
【生活保護法改正】
・ケースワーカーと関係機関との支援の調整や
情報共有を行うための枠組みとして会議体の設置をおこなう
・生活保護を利用している子育て世帯に対し、ケースワーカーによる支援を補い、
訪問等のアウトリーチ型手法により学習環境の改善、進路選択、
奨学金の活用等に関する相談・助言を行うことができる事業を創設する
・高等学校等卒業後に就職する際の新生活の立ち上げ費用に対する支援を行うため、一時金を支給する
(自宅を出て就職等する場合は30万円、自宅から通って就職等する場合は10万円)
・医療扶助については、都道府県へのデータ提供・分析等に係る体制整備の支援を実施する
【生活困窮者自立支援法改正】
・居住に関する相談支援等を強化する
・住居確保給付金に低廉な住宅への転居費用への補助を追加する
・就労準備支援事業と家計改善支援事業の国庫補助率を引き上げ、
生活保護利用者も利用できるようにする
・生活保護との連携や各事業との合わせた実施を目指す
改正することにより拡充されるものもあるとは思いますが、非常に限定的で、
論点としても十分とは言えません。当事者のための法改正、というよりは、
実施自治体や委託事業者(生活困窮者自立支援制度)のための法改正のように見えてしまいます。
必要な論点を提起していくために
生活保護への申請の物理的・心理的ハードルの問題や、
生活保護の手前の「給付型」の支援の必要性について触れられることもありませんでした。
〈もやい〉では、引き続き、現場からの声を発信していきます。(大西連)