2023年7月26日、NPO法人もやいは厚生労働省に対して、「生活保護制度の改善および適正な実施に関する要望」書を提出しました。これは生活保護制度の原理・原則にかんする内容から細部の実務にいたるまで多岐にわたる包括的な提言書で、2017年より毎年行っています。本要望書は〈もやい〉単独で提出しており、団体の基本的なスタンスが表れています。
こちらで全文をダウンロードできますので、よろしければご覧ください。
以下では、重点項目としてかかげたもののうちいくつかをピックアップしてご紹介いたします。
無料低額宿泊所等に対する規制の実施状況および規制の影響の把握、公開について
東京では安定的な居所をもたない、広い意味でのホームレス状態にある人が生活保護制度を利用する際に、しばしば無料低額宿泊所と呼ばれる施設を案内されます。法的には、施設入所を強制することはできませんが、現実には他の選択肢がないために実質的に強制されている実態があります。
従来、一部の無料低額宿泊所については、プライバシーが確保されていなかったり、居室面積が狭小であること、居室面積に対して利用料が高額であることなどが批判されてきました。こうしたことを受けて厚生労働省と各都道府県は「貧困ビジネス対策」として、無料低額宿泊所等に対する規制の強化を図ってきており、2020年度には無料低額宿泊所の基準を定める省令が施行されました。
この省令に基づき、無料低額宿泊所では個室化が進められるなど、環境の改善が進められてきた一方、居室面積が依然として狭小である施設が少なくなかったり、都心周辺からの施設の撤退など新たな問題も生じています。「貧困ビジネス対策」は当然必要ですが、それがどの程度実効性を持っているのか、また意図せざる結果が起きていないかどうか、その影響を把握することが必要だと考えています。
無届施設に対する罰則規定について
実態として無料低額宿泊所に当たるものの、都道府県に対して届出がなされていないいわゆる無届施設については、先の無低基準策定時に、届出の勧奨をすることとされています。ただし、届出をしないことに対する罰則規定などは存在していません。こうした現状を踏まえて、国では届出義務違反に対する罰則規定を設けることが検討されています。
規制逃れをするために届出をしていない施設があれば、確実に届け出をさせる必要がありますが、施設の実情を踏まえずに一律に罰則規定を設けることは、小規模な民間団体等によるシェルター等の運営に支障をきたし、却って制度を利用している人の選択肢を奪うことにもつながりかねません。そのため、届出義務違反に対する罰則規定を設ける前に十分な実態調査を行うべきであると考えています。
知人宅等に寄留する者からの保護申請の取扱いについて
生活保護制度が適用される単位は原則として個人ではなく世帯となっています(世帯単位の原則)。この世帯は、住民票の有無などによって機械的に判断するのではなく、生活実態を踏まえて、居住と生計の同一性の観点から判断されています。
もやいに相談に来られる方――とくに若年層、女性――の中には知人宅に一時的に滞在している状態の人がいます。こうした場合の世帯認定の考え方は現状では厚生労働省から示されておらず、自治体による対応にもばらつきがあります。
一部の自治体では、知人宅にいることはできるけれどもう経済的な支援は受けられないという状態であれば、単身として保護を開始した上でアパートに移るということができます。
一方、同様の状態であっても施設入所をしないと生活保護制度を利用できないなどの説明を受けてあきらめてしまうケースもあります。世帯の認定は当然ケースバイケースではありますが、自治体によってあまりにも対応が違うのは問題ですし、必要もないのに施設に入所させるのは不合理です。こうした状況を踏まえて、知人宅に寄留している場合の世帯認定について、厚生労働省としての一定の考え方を示すよう要望しました。
まとめ
今回の要望書ではこれ以外にも物価高騰を受けた保護費の引き上げや生活保護申請受付業務のオンライン化についてなど、さまざまな要望項目が含まれています。
保護費の引き上げや扶養照会の撤廃、自動車の保有条件の緩和などは簡単には実現できないかもしれませんが、もやいでは引き続き、現場で得られた知見を元に厚生労働省に対する提言活動を行っていきます。