コロナ禍は長引き、4度目の春を迎えようとしています。
思い返せば、〈もやい〉がコロナ禍での緊急的な支援を始めたのが2020年4月。
感染拡大と経済活動の縮小を受けて、生活困窮者の増加に対応するために、
毎週土曜日に新宿都庁下での食料品配布&相談会の活動をスタートしました。
また、サロンなどの交流事業の一時停止を決断。
医師等のアドバイスを受けてマニュアルを作成し、
備品の買い替えや事務所環境の変更等により、感染症対策も徹底してきました。
そして、緊急的なニーズに対応するためのアパート型シェルターの設置や、
チャット相談などのオンラインツールをパッケージにした「COMPASS」の開始など、
新たな支援方策の導入にも取り組んできました。
〈もやい〉としても、これまでの20年の歴史を振り返っても、
かつてないほどの変化が起きた3年間と言えそうです。
都庁下には毎週700人近くの列
もちろん、この変化は、現場の状況に対応するためのものです。
コロナ禍で〈もやい〉に支援を求めて訪れる人の規模は、かつてないほどに増加しています。
例えば、毎週土曜日に新宿都庁下での食料品配布&相談会の活動は、
2020年4月には食料品を受け取りに来られた方が100人ほどだったのが、
2023年1月末には当初の7倍近くの人数である685人に達しました。
リーマンショック後の年末年始におこなわれた「年越し派遣村」が約500人と言われているので、
それをはるかに超える人数であることがわかると思います。
実際に700人近くというのは、前代未聞の人数です。
東京のみならず、全国でも一番大きな規模の活動を毎週実施していることになります。
特に、昨年秋以降に、500人台から600人台に突入しました。
これは明らかに物価高の影響があると考えられます。
2023年に入っても、燃料代、生活用品等の値上げが報道されていますので、
今後、この人数のスケールはますます大きくなってしまうのではないかと懸念しています。
世間的には、コロナ禍は徐々に落ち着きを見せ、経済活動も再開している、
と考える向きもありますが、〈もやい〉の現場では先が見えない状況が続いています。
お子さん連れの方も路上でおこなう食料品配布に訪れる。
まさに、そういった光景が毎週続いているというのは、ショッキングなことだと思います。
参議院に参考人として招致されました
〈もやい〉のミッションは、「貧困問題を社会的に解決する」です。
現場での活動はもちろんのこと、政策実現を目指して提言活動等にも力を入れています。
要望書を出したりキャンペーンをおこなったり、といったオープンな活動だけではなく、
政治、行政、関係機関など、さまざまなセクターの人たちとの意見交換や
コミュニケーションを積極的におこなっています。
特に、コロナ禍では、国や自治体などの公的機関等からのヒアリングや、
意見交換等の機会も増加しました。
2021年1月には、参議院の「予算委員会」に参考人として招致され、
コロナ禍での貧困問題についての発言として現場の状況をお伝えしてきましたが、
2023年2月にも、参議院「国民生活・経済・地方に関する調査会」において、
参考人として発言をしました。
こちらは2年前とは違い、NHKの中継が入ったわけではありませんが、
コロナ禍を受けて、この日本社会がどのような支援体系を構築していくべきかなどについて
陳述をおこないました。
国が実施してきたコロナ禍での緊急的な支援制度も終了あるいは縮小するものが増えています。
それにより、支援が途絶えてしまう方も存在します。
また、例えば、緊急小口資金貸付などの「特例貸付」は
のべで300万人以上の方が利用しましたが、それらの返済が始まったり、
多くの世帯で免除の申請がおこなわれたりするなど、
実施された政策についての検証やふりかえりが必要なタイミングでもあります。
現場の活動から培われた視点やデータをもとに、これまでの政策について、
しっかりと分析していくこと、そして、必要な施策を求めていくことも
〈もやい〉の重要な使命であると考えています。
政策提言を実現するには
コロナ禍では、岸田総理をはじめ、現職の大臣らの視察を受け入れたり、
意見交換をしたりしてきました。
しかし、そこで提起した内容のすべてが政策に反映されたわけではありません。
というより、実際には、多くの場合で、情報のインプットはできても、
提言する内容について、より具体的なものであっても、実現するにはハードルが高いものばかりです。
例えば、生活保護の「扶養義務」についてなど、現場での運用が改善された面はありますが、
それを完全になくすための政治的なアクションや市民活動的なアプローチは
ほとんどおこなわれていない、とも言えます。
法改正などの与野党をこえた政治的コンセンサスを必要とする政策テーマに関しては、
社会全体の理解の促進を含め、まだまだ目標までは程遠いところにいる、
というのが実際のところです。
私たち自身も、より発信力を高め、現場の声を届けていかなければならないと、
あらためて痛感しているところです。
政策をすすめていくために
「おもやい通信」でも何度か報告をさせていただきましたが、
私は2021年6月より、内閣官房孤独・孤立対策担当室で政策参与の任に就いています。
この2年弱、政府がすすめる「孤独・孤立対策」について、
現場の人間として、政策立案に携わっています。
まだまだ始まったばかりの政策分野ですが、実態把握のための全国調査、
政府としての重点計画の策定、官民連携プラットフォームの設立、
そして、孤独・孤立相談ダイヤルの試行事業の実施や、
全国29自治体での地方版プラットフォーム形成のためのモデル事業のスタートと、
少しずつですが、政策の全体像が見えてきたところです。
もっとも、まだまだ輪郭が見えてきた、というところかもしれませんが、
着実に前進する政策分野もある、ということは重要です。
現場の知見やデータから始まる政策分野は確実に増えています。
貧困問題や生活困窮者支援の文脈は、生活保護制度など、半世紀以上の歴史や
積み重ねがある施策も多く、また、予算規模の大きさやクリアしなければならない
政治的な課題が多い場合もあります。しかし、現場の声を積み重ねていくことで、
政策実現を目指し続けていくことが必要だと思います。
コロナ禍で見えてきたことを「形」に
コロナ禍では、生活の苦しさや不安を抱えている方が想像以上に多いこと、
脆弱な生活基盤でやりくりしている方がたくさんいることが明らかになりました。
現場の実践や支援の積み重ねにより見えてきたことを、
政策として「形」にしていくことが必要です。
〈もやい〉は積極的にその役割を果たしていきたいと思います。(大西)