〈もやい〉が新宿ごはんプラス注)と土曜日に、東京都庁の下で食料品の配布や生活相談をしていることはご存じかと思います。利用者は毎週500人前後。ただ、その活動を間近で見た方は意外と少ないのでは? そこで7月16日の活動について、前日の準備と当日の様子を誌面で「実況中継」してみます。(広報担当・磯村健太郎)
【新宿ごはんプラス】
東京都内の団体・個人が連携し、2014年から活動している任意団体。共同代表は宇都宮健児・元日弁連会長と〈もやい〉の大西連理事長。協力団体は〈もやい〉のほか、認定NPO法人セカンドハーベスト・ジャパンや認定NPO法人世界の医療団、東京民医連、パルシステム生活協同組合連合会など。
前日
10:40
地下鉄・江戸川橋駅近くの〈もやい〉事務所。スマホ用の充電器6台と移動式のWi-Fi機器1台を一斉に充電し始める。困窮した方たちにとって、スマホは「命綱」とも言える。公的窓口や支援団体の情報を得るために欠かせないからだ。都庁下ではWi-Fiと充電のサービスをおこなう。事前の充電を忘れるわけにはいかない。
12:30
天気予報をチェック。理事長の大西連さんが「あした、雨っぽいなあ。確率40%か」。予想気温は27度。2週間前のように35度を超す暑さでないのは助かるが、利用者は雨で大変だ。
14:50
持っていく物品の確認。食料品を1人分ずつ入れるためのレジ袋600枚、感染防止対策の消毒液、ビニール手袋、ごみ袋……。
15:40
事務所から歩いて数分の倉庫へ。寄贈された食料品から、どれを運び出すかを決める。大西さんが、防災備蓄用だったウインナーソーセージなどの消費期限を確認していく。スタッフの田中悠輝さんは、運び出す品と箱数を備忘のためスマホに打ち込んでいく。
配布当日は、フードバンクのNPOセカンドハーベスト・ジャパンとパルシステム生活協同組合連合会の2ルートからも食料品が届く。
17:39
あした医療相談に来てくれる予定だった医師から「新型コロナの患者が複数発生」との一報。そちらに対応しなければならなくなったとのこと。代わりの医師も見つからない。この日の東京都の感染者は1万9000人を超えた。来週以降もどうなることか。
当日
10:13
事務所にトラックが到着。「おはようございます!」。パルシステムの配送を担う株式会社「ロジカル」の久保裕介さんの元気な声で作業が始まる。〈もやい〉の重い看板や医療関係の物品が詰まったバッグなどをトラックに積み込む。
倉庫からは食料品のほかに、相談会などで使う折り畳み式のテーブルや丸いすなども運び出す。気温はやや低いが、湿度が高いので汗ばむ。
トラックはこのあと、浅草橋のセカンドハーベスト・ジャパンへ。スタッフは地下鉄で大江戸線・都庁前駅に向かう。
12:00
都庁の1階には屋根のある広いスペースがあり、食料品の配布を待つ人たちはそこに並ぶ。ただ、13時近くにならないと敷地内に入ることができない。それを待つ人たちは小雨の降るなか、JR新宿駅の方向へ約200メートルにわたる列をつくっている。
12:15
食料品などを乗せたトラックが到着。ボランティアの集合は12時半だが、早めに来てくれる人もいて、さっそく作業開始。段ボール箱のビニールテープや紐をカッターで切る。空いた箱はつぶす。
大袋に入った何百個ものパンを3個ずつレジ袋に小分けする作業もある。これだけでも10人がかりだ。
12:18
スタッフの加藤歩さんは、見学に来た大学生ら5人に準備の様子を見てもらいながら、最近の状況を説明。大学生が小さくうなずいている。
12:40
若い男性が「きょう、医療相談できます?」と尋ねてきた。医師が来られない事情を伝えると、困った表情を浮かべた。どうやら医療の問題だけではなく、複雑な事情があるようだ。他団体での医療相談の情報なども乗っている「路上脱出・生活SOSガイド」を加藤さんが手渡し、火曜日に事務所でおこなっている生活相談を案内した。
12:55
大西さんが、食料品の配布を待つ人たちを都庁の敷地内へゆっくり案内し始める。「感染症対策のため、1メートルほど間隔を空けてください」。赤いヘルプマークを付けた人、車いすの高齢者、若い女性、背広姿の人……。きょうも500人近くになりそうだ。
13:05
列が敷地内に入り終えると、ボランティアが一斉に、道路側に置いていた食料品の箱を敷地寄りの定位置に移動させる。並べる順はアルファ米、缶詰、クラッカー、清涼飲料水、トマト、サクランボ、パン、それにマスクとフィルムせっけん。これらを1人分ずつ、流れ作業でレジ袋に詰めていく。緑の腕章の見学者も手伝いに加わった。
13:35
約40人が円陣を組んでミーティング。役割分担や流れを確認する。
14:00
食料品の手渡しが始まる。「生活相談の方は左手奥の受付までお越しください」「携帯・スマートフォンの充電器、無料のWi-Fiもご用意しています」
相談の受付には、たちまち行列ができる。ボランティアが健康面の相談なのか生活相談かを聞き、整理番号を渡していく。別のボランティアが丸いすを持って、それぞれ決められたエリアへ案内する。
14:28
あわただしさはピーク。順番待ちをする人の間をボランティアが行き交う。医療資格のあるスタッフの川岸夕子さんに、ボランティアの女性が駆け寄って「通院先の医師から栄養不足って言われたそうです。どうしたらいいですか?」
生活相談も多い。きょう相談員は9人いるが、その数を上回る勢いだ。コーディネーターの田中さんはどの相談員に入ってもらうかを決めていく。相談員は離れた場所でそれぞれ別の担当もしているので呼びに行かねばならない。「整理番号44番の札の方をお願いします。どこでお待ちか分からないので、探してもらえますか?」
14:35
大西さんと田中さんがそれぞれ、生活相談の内容を聞き終えた相談員と話し合う。もやいでは相談員が自分だけで判断することはなく、必ず複数で検討する。所持金が100円もない人の相談が何件もあるようだ。
14:43
初老の男性がやってきて、唐突にこう話しかけた。「困っている人、こんなにいるの? 俺だけじゃないんだ」。相談はされましたかと聞くと、「いま、やってもらった」とだけ言い残し、傘もささず、手押し車にもたれながら去っていった。
14:45
受付終了。まだ何件か相談は続いているが、あたりは急に静かになった。
14:50
片付けが始まるころ、疲れた様子の若い男性が遅れてやってきた。とりあえず、予備の食料品を手渡す。スタッフの松下千夏さんが「いまからでも相談できますよ」と声をかけるが、返事はあいまい。仕方なく、もやい事務所の地図を渡して「火曜日も相談日です。来てくださいね」と声をかけ、見送る。
14:55
終わりのミーティング。食料品などを受け取ったのは484人。相談は66件で、このうち生活相談が11件との報告。初めて参加した人にメガホンを回し、感想を話してもらう。ある女性はこう話した。「並んでおられた方たちは食べるものに困っていらっしゃるだけでなく、さみしさもあるような気がしました。そうした方を支えるものって何だろう、と考えさせられる1日でした」
15:10
久保さんたちのトラックを追うように、スタッフはボランティアの車で事務所に向かう。車中できょうの振り返り。「あれ? いつものお子さん連れの女性、見なかったね。大丈夫かな」「食料品の調達がきびしいなあ。どこかにお願いしないと8月はまずいかも」
15:45
倉庫と事務所に荷物を戻す。最後の力仕事を終え、全員でトラックに向かって手を振る。
みんな、ぐったり。事務所でしばらく、とりとめのない世間話でクールダウンする。いろんなことがあった土曜日がようやく終わろうとしている。
ボランティアにご関心のある方は、手続きが必要ですので、まずホームページをご覧ください。また、お配りする食料品が少なくなっていますので、500〜600単位での調達ルートに心当たりのある方はぜひお知らせ願います。