本日7月9日、NPO法人もやいは厚生労働省に対して、「生活保護制度の改善および適正な実施に関する要望書」を提出しました。これは生活保護の原則にかんする内容から細部の実務にかんするものまで多岐にわたる包括的な提言書で、2017年より毎年行ってまいりました(2020年はコロナ禍のため中断)。
すぐには実現が難しい内容も含まれていますが、制度を利用する方の観点から改善が必要だと考えられる問題点を行政の担当者に継続的に伝えることは、相談支援を長年続けてきた〈もやい〉だからこそできることだと考えています。やや専門的な内容が含まれていますが、行政職員や支援者のみならず、制度にかかわる方にぜひお読みいた抱きたいと思います。
全文は非常に長大(20ページ)なため、重点事項として直接厚生労働省側と意見交換した項目についてのみ下記にご紹介いたします。
なお、要望書の全文はこちらからお読みいただけます。
目次
1.日常生活支援住居施設の運用状況の検証及び見直しについて
「社会福祉住居施設及び生活保護受給者の日常生活支援の在り方に関する検討会」を経て、2020年10月より「日常生活支援住居施設」の運用が開始された。これは「社会福祉法第2条第3項第8号に規定する事業の用に供する施設その他の施設であつて、被保護者に対する日常生活上の支援の実施に必要なものとして厚生労働省令で定める要件に該当すると都道府県知事が認めたもの」(生活保護法第30条第1項)である。
「第12回 社会福祉住居施設及び生活保護受給者の日常生活支援の在り方に関する検討会」資料「日常生活支援住居施設における生活保護受給者の支援の在り方について(素案)」において、「日常生活支援住居施設の認定状況等の把握」「日常生活支援住居施設の質の向上に向けた取り組み」「日常生活支援住居施設の検証及び見直し」を「制度の施行状況等の検証等」として行う旨が記されている。日常生活支援住居施設は社会福祉法に定められる施設であり、公益性の高い事業である以上、施行状況についての検証結果は広く市民に対して開示されるべきものである。とりわけ、居宅移行が難しい人びとに対する生活支援を行う施設として位置づけを与えられた事業であることを鑑みれば、そうした検証は受益者の観点からの生活支援の評価を含むものであるべきである。
以上のことから、次のことを要望する。
第一に、「日常生活支援住居施設の認定状況等の把握」「日常生活支援住居施設の質の向上に向けた取り組み」「日常生活支援住居施設の検証及び見直し」の検証スケジュールおよび結果を広く市民に開示すること。
第二に、上記検証について、受益者(施設利用者)からの評価を含めた検証プロセスとすること。
2.ビジネスホテル&借り上げアパートの活用
居住地を持たない要保護者による申請があった際の居所の確保については一般事項1-3「居住地を持たない保護の申請者の居所の確保」で要望している通りである。この点に関して、2020年4月以降、東京都など一部の自治体では、新型コロナウイルス感染症対策との関連で発出された緊急事態宣言中に民間事業所により運営されているビジネスホテル等を借り上げることによって、一時的な居所の確保を行ってきた[1]。
法30条に定められた居宅保護の原則に照らして、ビジネスホテル等はあくまでも一時的な居所としての利用にとどめるべきであることは言うまでもない。しかし、要保護者の心身の状況や保護申請以前の生活圏、就職状況などを考慮に入れた時、無料低額宿泊所等よりもビジネスホテル等を利用することが自立の助長により資するところがあることが当団体への相談の事例からもうかがえる。また、同様の効果はビジネスホテル等に限らず、民間賃貸住宅等の借り上げを行った場合においても期待できる。さらに、このことは、新型コロナウイルス感染症の感染拡大が生じていない事態においても同様のことが言える。
以上のことから、次の通り要望する。
緊急事態宣言等の発出がなされていない場合においても、居住地を持たない要保護者の一時的な居所の確保のためにビジネスホテル等や民間賃貸住宅等の借り上げを積極的に行うよう、厚生労働省社会・援護局より各実施機関に対して事務連絡もしくは通知を発出すること
3.生活保護制度にかんする相談および申請受付業務の一部オンライン化について
生活保護の申請の取り扱いについては一般事項12‐1「保護の申請の取扱いおよび、申請時における制度の説明について」で要望している通りである。また、生活保護の申請については、局長通知第9-1および平成18年3月30日社援保発第033001号「生活保護行政を適正に運営するための手引きについて」(改正 令和元年5月27日第1号)において、申請書の書面での提出が困難な場合に、口頭によって必要事項に関する陳述を聴取し書面に記載しての申請、についても認めているものであり、保護の要否判定に必要となる書類等が揃わない場合であっても申請は受理することも同様に認められているものである。
新型コロナウイルス感染症の蔓延や、感染リスクの低減をおこなうにあたり、また、デジタル化が進む社会環境のなかで、生活保護行政についても、デジタル化やオンライン化が求められている情勢である。特に、生活保護の申請に関しては、夜間や休日、祝日等でも申請が可能で、年末年始などの「閉庁期間」でも申請受付の対応をおこなう自治体が増加している。
これらの情勢をふまえて、生活保護の相談および申請受付業務について、オンラインでの対応をおこなうことができるように、自治体の環境整備をはじめ、厚労省としても技術的な検討を早急におこなうことが必要である。
以上のことから、次の通り要望する。
第一に、生活保護の相談や申請について、オンライン上での申請をおこなうことができるように、厚労省としても技術的な検討をおこなうとともに、生活保護行政のデジタル化の流れのなかに、申請受付のオンライン化についても盛り込んでいくこと。
第二に、生活保護の相談や申請について、オンライン上での対応をおこなう自治体に対して、必要な予算措置を講じること。
4.ケースワーク業務の外部委託について
政府は、2019年12月23日に閣議決定された「令和元年の地方からの提案等に関する対応方針[2]」の「5 義務付け・枠付の見直し等」の項目において、生活保護制度の「ケースワーク業務の外部委託」について、次の通り定めている。
・福祉事務所の実施体制に関する調査結果や地方公共団体等の意見を踏まえつつ、現行制度で外部委託が可能な業務の範囲について令和2年度中に整理した上で、必要な措置を講ずる。
・現行制度で外部委託が困難な業務については、地方公共団体等の意見を踏まえつつ、外部委託を可能とすることについて検討し、令和3年度中に結論を得る。その結果に基づいて必要な措置を講ずる。
しかしながら、上記方針について、「福祉事務所の実施体制に関する調査結果や地方公共団体等の意見を踏まえつつ」とあるものの、これらが有効な根拠であるかどうかについては疑義が残されている[3]。加えて、上記方針においては「外部委託が困難な業務については、地方公共団体等の意見を踏まえつつ、外部委託を可能とすることについて検討」することとされているが、これは外部委託の推進という結果ありきの方針であり、かつそのような変更を検討するにあたって、日本国憲法と生活保護法の趣旨に照らして適当なものであるのかという観点や、制度の利用者に対してどのような影響を与えうるのかという観点は示されていない。
生活保護法はその第1条において国家責任の原則を示しており、またこの法律が日本国憲法第25条に規定する理念に基づくものであると定めている。ケースワーク業務の外部委託はこの原則に反し、また要保護者および被保護者にとっての不利益をもたらす可能性が高く、原則として行われるべきではない(※1)。
以上のことから、次の通り要望する。
第一に、厚生労働省として、生活保護制度におけるケースワーク業務を外部委託することによって生じうる問題点について、法的整合性および制度利用者の利益という観点から慎重に検討し、その結果を公表すること。
第二に、以上の結果について明らかにし第三者による検証を受けるまで、ケースワーク業務の外部委託を推進しないこと。
※1 当団体の相談者の中にも、生活困窮者自立支援制度及び生活保護制度の受付窓口を民間法人に委託している自治体において生活保護制度の申請を行おうとした際に、生活困窮者自立支援制度が生活保護法第4条に照らして生活保護制度に優先する他法他施策に含まれるという誤った説明をし、保護の申請権を実質的に侵害されたという方がいる。これをもってして一般化することはできないものの、事実こうした事例が生じている以上、外部委託をすることによる専門性の低下と制度利用者の不利益をもたらす可能性について慎重な検討が必要であることは言うまでもない。
5.扶養義務の取扱いについて
生活保護制度において、民法に定める扶養義務者による扶養は保護の要件ではなく、「保護に優先して行われるもの」(法第4条第2項)とされている。また、要保護者からの聞き取りなどによって把握された扶養義務者については、局長通知第5及び課長通知第5に定める方法で扶養能力の調査をすることとされている。
扶養に関する調査の手順については、要保護者からの申告を基本に扶養義務者の存否の確認を行い、さらに要保護者等からの聞き取りによって扶養の可能性の調査を行うものとされている。厚生労働省社会・援護局保護課事務連絡「扶養義務履行が期待できない者の判断基準の留意点等について」(令和3年2月26日)において「扶養義務履行が期待できない者」の類型が示され、あわせて令和3年3月30日付で課長通知の当該箇所も改正されている。また、生活保護法施行規則第2条は、生活保護法第24条第8項に定める通知を保護の実施機関が行う上での条件を定めている。
しかしながら、このように扶養照会や扶養義務者への通知に条件を定めているとはいえ、生活保護制度の申請に際して扶養照会が行われる可能性があることによって、生活保護制度の利用をためらう生活困窮者が当団体を含む支援団体にたびたび訪れており、潜在的には、このような生活困窮者の数は相当数にのぼるとみられる(※2)。生活保護制度を利用可能な者全体に対する実際に利用している者の割合(いわゆる保護の補足率)について、正確に把握することは困難であるものの、制度が利用できるにもかかわらず利用に至っていないとみられる者が相当の数いることは周知の事実である。その主な要因の1つは、扶養照会がなされる可能性があることにあると考えられる。このことは、生活保護法第24条第8項の存在によって、要保護者の申請の権利を実質的に制限することとなりかねない。
そもそも、民法によって規定される扶養義務者による扶養の義務は、年金制度などと著しく性質を異にするものであり、生活保護に優先して活用されるべきではない。また、扶養照会が行われるということは、申請者ないしは被保護者の情報を、本人の意に反して他人に提供することであり、生活保護を利用するためにこれを強要されるべきではない。
以上のことから、次の通り要望する。
第一に、生活保護法第4条第2項を「他の法律に定める扶助は、すべてこの法律による保護に優先して行われるものとする」とするとともに、第24条第8項を削除し、関連する法律の条文、政令、省令、通知等を改正もしくは改訂すること。
第二に、仮にこれが実現しない場合であっても、申請者が、扶養照会がなされることについて同意をしない場合には扶養照会がなされないよう、生活保護法施行規則第2条1項に「申請者が、法第24条第8項による通知が、保護の実施機関によってなされることに同意をしている場合」と追加すること。いうまでもなく、この同意が得られないことによって保護が却下されることのないようにするべきである。
第三に、第二の点と関連して、保護申請時点で扶養義務者の存否の確認のみならず、可能性調査の基礎となる情報を記載できる書式を作成し、各実施機関に交付すること。なお、具体的には、扶養調査がなされることにより要保護者が不利益を被る可能性がある場合にはその旨記載できる欄を設置するなどが考えられる(※3 別紙参照)。
※2 現時点(2021年6月時点)で、多くの自治体では特段の事情がなければ扶養照会等をおこなうほか、その特段の事情とされているDV等(配偶者や家族からの暴力)を申請者訴えた場合でも、その判断については各自治体において異なり、実際には、「扶養照会をする」といった説明がなされることが多い。現実には扶養照会を控えていたとしても、扶養照会の実施を示唆することは申請者の申請の意思をくじくことであり、申請権を実質的に侵害することになる可能性がある。保護申請がなされたあと、もしくは保護決定後にも扶養照会等をおこなうことは可能であり、申請者と丁寧に相談しながら個別に判断していくべきである。この点については特記したい。
6.大学等在学中の単身者が保護申請をした場合の就学継続について
現在の生活保護制度上では、複数の人員によって構成される被保護世帯に属する者の大学等進学については、一定の条件の下で世帯分離の措置を取ることが認められている(参考:一般事項第4項)。また、夜間大学等については稼働能力を活用した上で余暇活動として通学することが認められている。しかしながら、単身世帯で夜間大学等ではない大学等に在学している者が保護の申請をした場合には基本的には稼働能力の活用を求められ、修学を中断せざるを得ないケースがほとんどである。
昨今の新型コロナウイルス感染症の拡大の影響を受け、自身で学費もしくは/および生活費を就労収入によってまかないながら単身で生活をしていた大学生等が生活に困窮する事例が増加していると考えられる。しかし、現状の生活保護制度では複数人世帯に所属する大学生等が修学を継続できる一方で、上記のようなケースは修学を継続できないという事態が生じており、公平性の観点から問題がある。
以上のことから、次の通り要望する。
現に大学等に所属し修学している単身世帯の被保護者が生活保護制度を利用するにあたって、自立の助長という生活保護法の趣旨に照らして、修学を継続することができるようにすること。
7.保護申請時の資産(とくに預貯金)の扱いについて
要保護者が生活保護制度の利用の申請を行った際の、資産保有の限度及び資産活用の具体的取扱いは次官通知及び局長通知第3資産の活用により示されている。また、要保護者が生活保護制度の申請を行った際の要否判定の原則については、局長通知第10-10-2においてその原則が示されており、かつ、課長通知第10-問10の2においてとくに保護開始時に保有する手持金の、保護の程度決定にあたっての取扱いが示されている。これらによれば、保護の要否判定は「原則としてその判定を行う日の属する月までの3か月間の平均収入充当額に基づいて行うこと」とされており、申請時の手持金については「保護開始時の程度の決定に当たって認定すべき手持金は、当該世帯の最低生活費(医療扶助及び介護扶助を除く。)の5割を超える額とする」が、「この取扱いは要否判定の結果保護要とされた世帯についての開始月における程度の決定上の配慮であり、要否判定、資産・収入の調査についての取扱いを変える趣旨のものではない」とされている。
実際には、保護の要否判定の時点で就労等による収入充当額が最低生活費を下回っていても、最低生活費を超える手持ち金を所持している場合には保護の要件を満たしていないものとして申請が却下される、もしくは申請を遅らせるように助言するという運用が一般的になされている。しかしながら、このような運用は、最低生活費を超える手持ち金を所持している要保護者にとって、いたずらに保護開始までの時間を遅らせることとなると同時に、本来であれば自立の助長のために有効に活用することができた所持金を日常的な生活費として費消させ、結果として保護開始後の自立助長をより困難とさせている。こうした運用は法の趣旨に照らしても不合理であると考える。
以上のことから、次の通り要望する。
最低生活費を上回る手持ち金ないし預金を所持している者についても、その額が一定以内に収まっている場合においては(※4)、経常的な収入が最低生活費を下回っていれば所持金ないし預金を維持したまま保護制度を利用できるよう、必要に応じて実施要領等を改訂すること。
※4 「一定以内」の金額をどのような方法によって、どの程度に設定するのかは議論を要する。たとえば、生活困窮者自立支援法に基づく住居確保給付金事業においては、資産要件として「現在の世帯の預貯金合計額が、各市町村で定める額(基準額の6月分。ただし、100万円を超えない額)を超えていないこと」とされている。
8.生活用品としての自動車等の保有について
『課長通知』の「第3 資産の活用」問9と問12において、通勤または通院等のために自動車を保有することが認められている。また、『問答集』問3‐14「自動車の保有」において、事業用品としての自動車の保有が一定の条件のもとで認められる余地が示されている。しかしながら、同問3‐14において、「生活用品としての自動車については原則的に保有は認められない」とされている。
自動車は、公共交通機関の整備状況や、さまざまな資源の配置などの、個別の地域の社会的、地理的条件等によっては、日常生活を送るために必要不可欠なものである。これにもかかわらず、現在の生活保護制度では生活用品としての自動車の保有が原則として認められていない。このような状況は、地域によっては生活保護制度を利用することを、その権利者にためらわせることにつながっていると考えられる。特に地方において自動車等の保有は死活問題である。都道府県・政令指定都市別にみた母子世帯の世帯保護率(2015年度、1カ月平均)(推計値)を見ると、東京都は19%に近い世帯保護率である一方、富山県は、わずか0.61%の世帯保護率など、一般的に自動車等の保有が必要である地方に行けば行くほど保護率が下がるという傾向がある。(藤原千沙「地方における母子世帯の暮らしと生活保護ー自動車の保有・使用の視点から」『月刊自治研』2017.7 vol59 no.695)。当団体を含む支援団体へ寄せられる相談においても、自動車等の保有が生活保護の申請の妨げになっている事案も多く、早期の改善が必要である。
以上のことから、次の通り要望する。
生活保護制度において、生活用品としての自動車の保有を原則として認めると同時に、その維持・更新にかかる費用について、一時扶助費の支給または収入認定除外を行うなどの措置をとることができるように制度を改善することを求める。なお、同様の理由から、オートバイおよび原動機付自転車についても、その排気量に関係なく生活用品としての保有・維持・更新が原則として求められるよう、実施要領の改訂を行うこと。
9.住宅扶助費の見直しについて
生活保護制度の住宅扶助費のうち家賃、間代、地代等については、生活保護法第14条、次官通知第7-1、局長通知第7-4において定められており、その具体的な金額は、告示「生活保護法による保護の基準」別表3において、またこの表に定める額を超えるときには、厚生労働大臣が別に定めている。
一般に、被保護者は以上により定められた家賃、間代、地代等(住宅扶助費上限額)によりまかなうことができない場合には実施機関により転宅の指導がなされるか、他の扶助費から被保護者がやりくりをして居住を継続している。また、転居に伴う一時金が支給される場合にも、上記金額を基にして一時金の上限額が決められている。
日本においては、公営住宅を含む公共住宅の供給はきわめて限定的であり、とくにひとり親世帯、障害者世帯、高齢者世帯以外では公共住宅への入居は困難であるために、被保護者の居所の確保のためには民間賃貸住宅市場に依存せざるを得ない状態である。しかしながら、とりわけ都市部においては、上記住宅扶助費上限額以内の物件を探すことが困難な場合があり、また、仮に見つけることができたとしても、狭小で風呂やトイレ等が共同であるか、設置されていないなど、健康的で文化的な最低限度の生活を送ることが期待できない環境であることがしばしばである。
以上のことから、次の通り要望する。
第一に、各地域における民間賃貸住宅の家賃及び居室等の環境についての実態把握を行うこと。
第二に、上記実態に合わせて住宅扶助費の基準の見直しを行うこと。
10.転居に際しての鍵交換費用について
被保護者が転居に際し、敷金等必要とする場合には住宅扶助の特別基準額に3を乗じて得た額の範囲内において、または特定の地域によって特別に定められた額の範囲内において必要な額が支給されている。この「敷金等」については、課長通知第7-問35において、必要やむを得ない場合には「権利金、礼金、不動産手数料、火災保険料、保証料」を認定しても差し支えないこととされている。
しかし、一部の地域においては転居の際に慣習的に鍵交換費用が必要となる場合があり、現行の運用では「敷金等」として鍵交換費用は支給されておらず、基本的には被保護者が保護費をやりくりして支出している。地域によっては、被保護者自立促進事業において、鍵交換費用を上限額内で支給しているが、地域によってばらつきがあるのが現状である。法の趣旨に照らして、地域によって被保護者の負担が異なっている現状は問題であり、是正が必要であると考える。
なお、生活保護制度においては経常的な生活費とは別に、特別な需要が発生した際に支給される「臨時的一般生活費」が定められており、現行の制度では(1)被服費、(2)家具什器費、(3)移送費、(4)入学準備金、(5)就労活動促進費が臨時的一般生活費に含められている。鍵それ自体は住宅の設備にかかるものであり、かつ家具とも性質が異なるものである。したがって、「敷金等」や「家具什器費」に含めることは適当ではない。
以上のことから、次の通り要望する。 臨時的一般生活費に「鍵交換費」を新設し、被保護者が転居に際し鍵交換費用を必要とする場合には、その実費を認定し支給することができるよう、関連する通知等を改訂すること。
[1] 関連通知として、厚生労働省社会・援護局保護課、厚生労働省社会・援護局地域福祉課生活困窮者自立支援室 事務連絡令和2年4月7日「新型コロナウイル氏感染症に関する緊急事態宣言に係る対応について(一時的な居所の確保等について)」
[2] https://www.cao.go.jp/bunken-suishin/doc/k_tb_r1_honbun.pdf
[3] 生活保護問題対策全国会議「生活保護におけるケースワーク業務の外部委託化に反対し、正規公務員ケースワーカーの増員と専門性確保等を求める意見書(案)」(http://665257b062be733.lolipop.jp/201019ikensho.pdf)