難民支援から〈もやい〉へ
これまで、関心は海外に向いていました。旅や歴史が好きで、
20代の頃にバックパッカーをして20数か国を歩きまわった経験も大きかったです。
〈もやい〉に入る前は、難民を支援する団体で、広報を仕事にしていました。
勤務地は東京ですが、支援の現場は海外。
たまの出張で、数年前に日本でも大きな話題になったシリア難民と会ったり、
アフリカの巨大な難民キャンプの現状を見たり、家族を目の前で殺された話、
空爆の恐怖、先の見えない難民生活のつらさ、支援の難しさ、等々、
日本では知られていないことを見聞きして、
それを伝えて、関心を広げることにやりがいを感じていました。
それがある時から、自分は日本で起きていることを知らない、
ということが気になりだしました。日本で、難民だけでなく、
生活に困難を抱えた人たちにどんな支援があるのだろう。少し調べておくか。
それくらいの気持ちで〈もやい〉のセミナーに参加したのが、一年前のことです。
誰でもここにいていい、という〈もやい〉の空気
セミナーで、〈もやい〉のボランティアはまったく知識や経験がなくても
参加できると聞き、思い切って生活相談会の日に出かけてみました。
ベテランの隣で一緒に話を伺ってまず驚いたのが、住まいを失ったり、
失いそうになっているきっかけや経緯は、自分や家族・知人が
いつ同じ境遇になってもおかしくない、と思えることが少なくないことでした。
ですが解決方法はというと、今度はひとりひとりに必要なことが千差万別で、
簡単に答えが出ないのです。
行政の担当者のしゃくし定規な対応や、相談の電話のたらい回しを
目の当たりにしたり、アパート探しでは、不動産屋への電話で生活保護であることや
年齢を口にしたとたんに断られるのがいつまでも続いたり、
ニュースや本で聞いたことはありましたが、実際に起こるのを体験した衝撃は大きかったです。
その一方で、ひっきりなしに訪れる相談者に、どういう提案ができるか、
どれが最善か、他のメンバーとも議論し、時にはそのまま
「一緒に生活保護の申請に行ってくる!」と事務所を飛び出していく、
パワフルなボランティアの姿にも圧倒されました。かと思えば、
元は相談者として〈もやい〉につながった方が、穏やかな笑顔で会いにきてくれたり。
深刻な現実を包む、前向きなエネルギーや、誰でもここにいていいというおおらかな雰囲気。
そんな〈もやい〉に惹かれ、ボランティアに通う日が増えていきました。
そんな中で目にした求人。自分にできるか不安もありましたが、
ここで一緒に活動したい気持ちが勝りました。
つながりの安心も提供できるように
〈もやい〉では、アパートを借りる際に保証会社の審査が通らなかったり、
緊急連絡先がなかったりという方に、連帯保証人や連絡先を提供することもしています。
入居支援の仕事は、それらの手続きをするのが半分、
入居後に起こる様々な困りごとに対応するのが半分、といったところです。
ほとんどの方とは、手続きの時の1回きりか、アパートの更新のために
2年に1度お会いするだけです。住まいを得た後も、きっといろんなことがあると思います。
これから何かあっても〈もやい〉に相談できる、と安心してもらえる存在であるように、
と思いながら日々業務にあたっています。
福祉の分野でも、制度はどんどん改善されているようですが、
それでも現実よりずっと遅れていて、そのために多くの人が苦しんでいることを
実感する毎日です。入居のお手伝いをする中で見えてきた現実や、
現実に合わせた制度やシステムを考えて発信していくこともしていけたらと思います。
これからどうぞよろしくお願いいたします。(伊藤)