〈もやい〉では、生活相談、入居支援、交流といったさまざまな事業があり、これらの事業には数多くの方にボランティアとして携わっていただいています。今回は大学院で公共政策学を研究しながら、〈もやい〉の生活相談などのボランティアをしてくれている手嶋さんにインタビューを行いました。
1 〈もやい〉に来るまで
武笠(以下「―」)〈もやい〉に初めて来たのはいつですか。
手嶋 今年(2019年)の1月です。
― 大学院では何を勉強されているのですか。
手嶋 公共政策学です。
― 専門は?
手嶋 NPOやサードセクターの研究です。
― サードセクターというと・・
手嶋 非営利の労働組合とか協同組合とかNPOです。
― それを学んでみようと思ったきっかけは?
手嶋 実家が新潟の田舎のお寺なのですが、日頃からお家の中に入れてもらう機会が多いんです。自分もお盆にお経を読みにいったりして手伝うんですが、地域の中で老々介護とか少子高齢化といった社会問題がかなり進んでいるのを感じました。
― お寺の手伝いをするうちに社会問題を身近に感じNPOの研究をするに至ったということですか。
手嶋 もともとお寺を継ぐとともに町長にもなりたいと思っていたこともあり(笑)。
― ええっ。町長?
手嶋 はい。もう周りにも言っているんですよ。あえて自分に枷をつけているというか。
― いつ頃から町長になろうと。
手嶋 中学・高校生くらいからかな。
― そんなに早くからですか。
手嶋 わりと小さいころから身近でいろいろな問題が起こったんです。独居のおじいちゃんおばあちゃんが増えていって、孤独死もありました。母親がお経を読みに行って返事がないので裏庭の窓から見たら倒れておられて。
― 一人暮らしの方は多いですか。
手嶋 はい。多いですね。
― お寺って地域に関わる機会が多いのでしょうね。
手嶋 そうですね。ふらっと入ってお茶飲みに来られる方もいらっしゃいます。寺では誰かしら常に居るようにしていますし。うちから自転車で10分くらいで海なので、釣りに行くとその日のうちに魚を持ってきてくださる方もいます。
― そんなふうに育つなかで、自然にお寺を継ぐとともに町長にもなろうと。
手嶋 町長になろうと思ったのも、行政の側からなにかできるんじゃないかと思って。
― 例えば?
手嶋 高齢化が進んでいて、子どもが仕事で他県や他都市に行って帰って来ないとか。話し相手がいないとか。
― 対策は出生率を増やすとか?
手嶋 いえ、「二人以上産め」などと行政が言うのは人権侵害ですよね。
子どもを産んでくれたらサポ―トをするし、産まなくてもサポ―トをするよ、というのが本来のはずです。人口が減っているのであれば減っているなりに、町の機能を小さくして、今いる人がどうやって過ごしたいか、ということが実現できればいいのにな、と思います。家族のいる人だけではなく、一人暮らしの高齢者、独身の人も、小さな町で暮らしていければいいと思います。
2 お寺とNPOをつなぐ
― 〈もやい〉に来たきっかけをお伺いしていいですか。
手嶋 湯浅誠さんが書いた「反貧困」を読んで〈もやい〉のことを知りました。お寺の手伝いをしていくなかで、いろいろなお家がありました。大学では地方政治を学びましたが、行政の力だけでは社会問題の解決は難しいと思いました。じゃあ、NPOだと。お寺がNPOと連携してなにかできればいいなと漠然と考えているうちに、「反貧困」を読んで、〈もやい〉が近くにあることを知って、行ってみようと思いました。
― お寺とNPOが連携している例ってあるのですか。
手嶋 あります。
― どちらかというと、お寺はお葬式のイメ―ジが強く貧困やホ―ㇺレス支援などはやっているところが少ないかと・・。
手嶋 そうですね。幼稚園経営とかはよくありますけれど。
― でも、手嶋さんは、将来、貧困問題に一歩踏み出したいということですね。
手嶋 そうです。
― こういうことをしたいとか具体的にあるのですか。
手嶋 福祉施設や地域包括支援センタ―と連携できればもっと幅広い支援ができるのではと思っています。あとは、リビングウィルといって、認知症や寝たきりになる前に、延命治療の有無やどうやって見送ってほしいかということの確認をお寺がお聞きできればいいなと思います。
― お寺がリビングウィルですか。
手嶋 かえってお寺のほうが相談しやすいかもしれないと思うんです。
― 確かに地域包括支援センタ―にはあまり相談しにくいかもしれませんね。
手嶋 お寺は、「生老病死」を考えないといけないと思うんです。
― そういう言葉があるんですね。人間の一生は死だけではないですものね。
手嶋 本来仏教は、生きることをどう考えるか、なので。
― 仏教のことがお好きなんですね、お好きというのも変ですけれども。
手嶋 好きとは違いますが、いつも考えてはいます。信じると考えなくなってしまうので、信じるというのとは違いますね。学び考えるものだと思っているので。
3 決めつけたくない
― ところで、〈もやい〉の初日はどういったものでしたか。
手嶋 すぐ(相談に)同席してほしいと言われ、えっ、こんなすぐに?と思いました。
― 最初はベテラン相談員の横に黙って同席するところから始まりますよね。〈もやい〉の印象はどうでしたか。
手嶋 ボランティアの人が前向きというか、明るいというか、活気があって生き生きしていることに驚きました。
― 生き生き?
手嶋 パワフルというか。こういう支援の仕方があるんだなと思いました。
― そういえば、手嶋さんは、最初から〈もやい〉になじんでいましたよね。
手嶋 そうですか?一年間休学して寮生活をしたときに、別に人にビビらなくていいかなと思ってそれから人間が少し変わったかもしれません。
― ビビらなくていいかな?
手嶋 もともと他人はわからない、ということがわかったというか。本来わからないものじゃないですか。以前は、この人はこうだ、あの人はああだと決めつけがちだったんですけど。その人の一面だけを見て決めつけるのは思考放棄だと思うようになりました。それで、ずっと考え続けるようにはしています。これはこうと決めつけたくないというのは自分の中ですごく大きいです。
― 手嶋さんは、考えている経過を口に出しているんじゃないかな。そうなんだよね、ああなんだよね、としゃべっている。一見決めつけているようなんだけど、ほんとは考えている途中なんですよね。だんだん周囲も慣れてくるうちに、この人ほんとは考え続けている途中だったんだ、とわかってくる。なにしろずっとしゃべっているからね。
手嶋 しゃべることが追い付かないから、すごくおしゃべりだから。
― やはり。
手嶋 おしゃべりだって気づいたのが大学2年のときなんですよ。それまで聞き上手だと思っていたのに。大学2年生のときに、おまえおしゃべりだよねって友達に言われて。ええっ、ほんとに?ってびっくりしたら、周りに大爆笑されて、うそだろ気づいてなかったの?って(笑)。
― 新潟の人、無口だから。(インタビュ―ア―も同郷)
手嶋 いいえ。そんなことはありません(きっぱり)。決めつけたくないんで。
― すみません。
手嶋 決めつけるのは・・結局、楽なんですよね。
― この人はこう、あの人はああ、と類型化しても、必ずちょっとずつずれていますよね。
手嶋 生活保護の人はああだ、とか決めつけるのは絶対いやだな、と思います
4 秋の法要に出て
― 秋の法要はどうでした? ※〈もやい〉は春と秋に法要を行っております
手嶋 集まったみなさんが〈もやい〉とのつながりがとても深く、〈もやい〉に親しみを持っているんだなと思いました。〈もやい〉の活動も、単に支援したり生活保護を申請して終わりというのではなく、息の長い関わりができているんだなと思いました。人が死ぬというのはとてもプライベ―トなものですが、そういうところにもきちんと接しているのは〈もやい〉の特徴なんだろうなと思いました。点の支援で終わるのではなく線でつながっているというか。
― 〈もやい〉は交流事業を通じて「人間関係のつながりの貧困の解消」に向けて努力してきました。葬送支援も苦労してできたものですが、どうしても顔の見える関係にとどまりがちというか。間口は広くとっているつもりですが、できればサロンなどで顔を合わせる関係になってもらえればというところもあり、なかなか難しいです。
手嶋 交流事業だと、メンバ―が決まってきたりして新しい人が中に入りづらいということになりがちということも一般的にはよくありますよね。
― 本当はもっと多くの方々かかわっていただきたいと思っているんですけどね。交流事業も、農業部とかもやいコーヒーロ―スト倶楽部とかいろんな関わりを広げつつありますから、火曜にボランティアをしているときにぜひお誘いしてみてくださいね。
5 ボランティアの定着について
― ボランティアメンバ―がいろんな役割をしてくれていて助かるんです。〈もやい〉はボランティアがいないと全然回らないから。
手嶋 今考えているのは、お金が支払われていないからこそ支援される側も温かみがあるのではないか、ということです。仕事でやっているのではない、というのはすごく大きいと思う。ボランティアだから線の支援が可能になるのではないかと。一概にはいえませんが、ボランティアだから、境界線があいまいだから、その人のために何ができるんだろうと純粋に考えることもやりやすいというか・・。
― 支援される側にとっても、相手がボランティアであることの積極的な意味があるということですね。
― そういえば、ボランティアという名で呼ぶかどうかはともかく、地方では今でもけっこうお寺の行事などに地域の方がかかわっていますよね。
手嶋 そうですね。おじいちゃんが名簿作りに来てくれたりお母さんたちがご飯作りに来てくれたりします。
― そういうところは〈もやい〉と似ていますね。今日はカレ―作る人少ないから私がやるとか。大学でもボランティアについて勉強しているんですか。
手嶋 NPOのマネジメントは勉強しています。団体ごとの適正さとかボランティアの仕事の配置とか。
― 私がボランティアだったときは何もすることがないと少し退屈だった。
手嶋 ボランティアも自分が役に立っているんだという実感が大事ですよね。
― 例えば〈もやい〉はこうするといいなというのはありますか。
手嶋 相談に入っていないボランティアさんが手持ちぶさたに見えることがありますね。ボランティア同士の会話がもっとあってもいいかなと思います。
― 時間のあるとき傍らで勉強会するとか。
手嶋 新しく来た方にベテランが話しかけることを仕組み化するとか。
― 相談に来た人第一だから相談者のことばかり考えているうちに一日が終わりがちなんですよね。あと、一つあるのはあまり詮索されたくない人も多いと思うの。
手嶋 ただ待っているのはつらいので、この前やった単純作業とか、ちょっとふせんをはるとか。あるといいです。めんどくさいですね―とか話をしていると盛り上がるので。「今日の手持ちぶさたさん用」という箱を作って手の空いた人がやるとか。
― わかりました。早速検討します!
6 貧困と自己責任
― 〈もやい〉に来て、貧困について認識が変わりましたか。
手嶋 変わったというか、家庭環境がすごく大きいなと思いました。会社が倒産というより、昔からの境遇とか、本人の選択ではなくそういった状態になってしまったという人が多いと感じました。あとは障害の問題とか。累犯障害者の支援が全くというほどないというのを聞いたことがあります。
― 自己責任論については。
手嶋 どういう家庭に生まれるかというのは自分が操作できるわけではない。僕にしたって、寺に生まれることは自分が決めたわけじゃない。自己責任と言う人は、知らないだけなのだと思います。自己責任と言う人を悪者にするのではなく、どうやって知ってもらうかということが大切だと思います。自己責任と言うのも結局のところ「信じているだけ」だと思うんです。
― 今日は長時間お話しいただき、今日はありがとうございました!
編集後記
手嶋さんの、考え続けることを大切にする姿勢が印象的でした。もやいは学生さんや若い方のボランティアも大歓迎です。手嶋さん、これからもよろしくお願いします!