要望書について
2019年度の上半期、〈もやい〉では
「無料低額宿泊所の設備及び運営に関する基準(案)」に関する
パブリックコメントを提出したほか、厚生労働省に対し
「生活保護制度の改善および適正な実施に関する要望」という要望書を提出しました。
ここでは後者の概要と、とくに「生活に困窮されている性的マイノリティの方への対応について」
「葬祭扶助の実施について」という2つの項目について解説したいと思います。
この要望書は、生活保護制度全般にわたって改善を求める包括的な要望書として、
昨年に引き続き作成しました。
(全文はこちらでご覧いただけます→https://www.npomoyai.or.jp/20190712/5761)
今年は「重点項目」と「一般事項」に分けられており、重点項目には以下のものが含まれています。
重点項目
1.社会福祉住居施設及び日常生活支援住居施設について
2.生活に困窮されている外国籍の方への対応について
3.生活に困窮されている性的マイノリティの方への対応について
4.葬祭扶助の実施について
5.転居に伴う保護の実施機関の変更(移管)について
6.大型連休や土日での生活保護申請の受理や緊急的な支援について
7月10日に厚労省に要望書を提出した際には、この重点項目について
具体的な内容も交えて担当者と率直な(たまに激しい)意見交換を行いました。
「生活に困窮されている性的マイノリティの方への対応について」
この項目について、具体的には〈もやい〉として次のような点を要望しました。
第一に、生活保護を利用する性的少数者がどのような配慮を必要としているのか、
被保護者のプライバシーに十分配慮したうえで、その実態を調査し、結果を公表すること。
第二に、実態調査と合わせて、当事者や支援団体、研究者等に対するヒアリング等を実施すること。
第三に、実態調査とヒアリング等を踏まえて、性的少数者に対する適切な対応がなされるよう、
必要に応じて制度を改正すること。
第四に、以上のことと並行して、性的少数者に関する研修をすべての福祉事務所で実施し、
現業員および査察指導員の資質の向上に努めること。
今回、なぜこの内容を重点項目の1つとしたのか、
その意味について思うところを述べたいと思います。
まず、生活保護については水際作戦や保護基準の切り下げなどの問題が大きな論点となってきました。
一方で、性的マイノリティへの対応に注目が集められてきたとは言えないように思います。
厚労省も2019年の4月から医療券の性別欄の記載について
性的マイノリティに配慮した運用を認めたものの、
制度全体を視野に入れた対応は今のところ見られません。
例えば、性別の表記だけでなく、現状では施設も「女性専用」「男性専用」などとなっており、
「個室」といいながらもプライバシーが確保されていないものも多くあります。
性的マイノリティのなかには、そうではない人以上に施設利用といった局面で負担を強いられたり、
気を遣わなければならないことがあります。制度そのものが
「男」「女」という二分カテゴリーを前提としていることがこうした問題の根本にあります。
また、性的マイノリティにかんする議論は、
ごく少数の人びとにかかわる問題というわけではありません。
性的マイノリティであるがゆえに受ける不利益は、
その社会におけるジェンダーやセクシュアリティについての先入観・固定観念があるからこそです。
そして――生活保護制度のような――社会制度にはそうした先入観・固定観念が反映されており、
同時にそれが私たちのジェンダー等にかんする考え方や行動に影響を与えます。
この意味で、この問題は私たち全員にかかわる問題である、
という観点からこの項目を重点項目としました。
厚労省では実際に全国のケースワーカーに対し、研修を行ったりしているということですが、
より踏み込んだ制度全体の検討をしてほしいと思っています。
「葬祭扶助の実施について」
生活保護を利用している/しないにかかわらず、
自分の葬儀をどのように行ってほしいのか、
というのはいろいろな意見があると思います。
〈もやい〉では結びの会に加入されていて、
ご希望をいただいている方には、「葬送支援」という形で、
万が一亡くなられた際にご本人の望む形で葬儀等を行えるようお手伝いをしています。
生活保護を利用されている方の場合、お亡くなりになった際には
福祉事務所から「葬祭扶助」が支給されますが、
生前にどのようなお見送りの仕方を希望しているのかを把握する仕組みがありません。
そのため、私たちは次のような要望を伝えました。
葬祭扶助を行うにあたり、葬祭のあり方に関して
被保護者が生前に示していた意思を尊重すること、
また日頃からそのために葬祭のあり方について被保護者から十分な聞き取りを行うこと。
これらの点について、関係機関に対して通知等を通して指導を徹底すること。
この点について、厚労省の担当者も、
被保護者の希望に沿った葬送が行われるべきだということについては同意をしていました。
ただし、どのような仕組みで生前の意思を確認するのがよいのかということについては
悩んでいる様子で、当日は具体的な方法も含めて意見交換を行いました。
生活保護を利用されている方が亡くなれる時には、誰もが自分の望む形で葬儀ができるように、
少しでも早い制度の改善を求めていきたいと思います。(結城)