2019.8.23
〈もやい〉ボランティアインタビュー[2]:牧野さん
先月に引き続き、〈もやい〉でボランティアをしてくださっている方へのインタビュー第2弾です。今回はサロン・入居相談・生活相談と幅広く活躍する牧野さんに、入居スタッフ・武笠優子と交流スタッフ・松下千夏がお聞きしました。
目次
もやいでの活動
武笠:牧野さんは〈もやい〉でどんなことをされていますか?
牧野:金曜はお菓子作り、土曜はサロンのお手伝いなど、火曜は入居支援のボランティアをしています。生活相談やアパートの内見同行のボランティアをすることもあります。
武笠:今までどんなお菓子を作られましたか?
牧野:シフォンケーキ、マドレーヌ、アップルパイ、桜餅、お団子、おはぎ、杏仁豆腐…季節に合わせて色々作っています。
武笠:入居支援のボランティアというのは?
牧野:ベテランの方と一緒に連帯保証契約の更新や緊急連絡先提供の手続きをしています。
武笠:すごく色々なことされていますよね。
〈もやい〉に来るきっかけ
松下:いつ頃から〈もやい〉に来られましたか?
牧野:初めて来てから二年くらい経つでしょうか。
武笠:もやいのことは何でお知りになったのですか?
牧野:湯浅誠さんの本で知りました。
武笠:「貧困問題」にもともと興味がおありだったのですか?
牧野:最初はありませんでした。仕事をやめて時間ができて環境問題の本などを読んでいるうちに湯浅さんの本に行き着きました。
武笠:湯浅さんの本を読んでどう思いましたか?
牧野:自分の知らなかったことを気づかせてもらいました。自分はごく一般的な家庭で育ち、両親も兄弟もいる…その中で、社会問題にあまり関心を持たずに生きてきた。それまではどちらかというと、貧困とかホームレスの方って「自己責任」なんじゃないか?と思っていた側の人間だったのです。
武笠:自己責任。そうなったのは本人の責任だと。
牧野:はい。でも、湯浅さんの本でそうではなかったと気づかされました。
松下:そうではなかったとは?
牧野:本人の意思や努力だけではどうしようもない中で生きている人がいるということに気づいたということです。湯浅さんの本には、ご家族に障害をお持ちの方がいて、自分が大学に行けたのは環境が良かったから、いろいろな溜めがあったからだということが書いてありました。
犬がきっかけ
松下:[湯浅さんの本を]読んだ後すぐ〈もやい〉に?
牧野:いいえ。そのときは地方に住んでいたので行けませんでした。飼っていた犬を留守番させられなかったこともありまして。
武笠:犬。
牧野:はい。ボランティアのきっかけは犬でもあるんです。仕事を辞め、犬を飼い始めたんですが、犬と過ごすうちに、自分が仕事をしている時代に囚われていた考え、働いていることがかっこいい、お金を稼ぐことが一番、という考えが消えていきました。また、犬の殺処分や環境問題の本を読んでいくうちに、なぜ世の中こうも上手くいかないのかなと突き詰めていくと「人間」の問題に行き着いていった。
武笠:結局「人」の問題じゃないかと。
牧野:そうです。
もともとはサロンをやりたかった
武笠:〈もやい〉に来た直接のきっかけは?
牧野:その後犬が亡くなり、東京に引っ越したこともあり、チャンスだからボランティアセミナーを受けてみようと。
武笠:ボランティアセミナーはどうでしたか。
牧野:それが、もともと〈もやい〉にはサロン的なイメージを求めて行ったのですけど、生活相談のボランティアがメインだったので少し戸惑いました。
武笠:もともとはサロンをしたかったと?
牧野:そう、サロンしたかった(笑)。
武笠:そういえば初期の頃、一緒に連帯保証人の方のお宅を訪問したとき、道すがら、「わたし、交流に一番関心があるんです」って話されてましたね。
牧野:そうですね。最初に火曜相談に入ったとき、「こんなに専門的なボランティア、わたし出来るのかな」と不安に思いました。でも、そのうちに貧困問題基礎講座に参加したんです。そのときHさんが、「私は火曜日の入居相談と土曜日のお運びをしています。」って。それで、ああ、そういう人もいるんだなと安心してサロンに入りました。
武笠:Hさんがいてくれてよかったですよね。
牧野:それまではサロンのボランティアをやるにはどうしたらいいんだろうって思っていました。「いいのよ。好きな時間に来てくれて。」と言われて。「じゃあ、今度行きます」って。
松下:ボランティアの方は、「私は相談をやりたい」っていう人も多いですよね。
武笠:そういう意味では、〈もやい〉のボランティアは色々選択肢があっていいですよね。
牧野:そうですよね。でも私は、「あれがやりたい」というよりも、とりあえず〈もやい〉に関わるために飛び込んだだけだったんです。
〈もやい〉に関わるために飛び込んだ
武笠:「〈もやい〉に関わるために飛び込んだだけ」っていうのは印象的な言葉ですね…。あれかな、実際のところは、相談はハードルが高いと思う人がけっこう多いのかな?
松下:武笠さんは思わなかったの?
武笠:そうですね…。私は「早く(相談を)できるようになりたい。」と思ってた。
松下:ない(笑)。
武笠:交流系・相談系…ってあるのかな?志向として。
牧野:交流はすでに支えあいができている場だと思いますね。
武笠:交流と入居って似てますよね。いったん問題が解決したあとに。
松下:長く継続する関係性の中のひとつの区切りってかんじ?そういえば、両方に顔を出してる人も多いですよね。
牧野:入居にスカウトしていただいて。でも入居は生活相談より更に難しいと思っていたんですよ。生活相談で知識を得た人が次に取り組むイメージで。
武笠:契約に関わりますからね。でも生活保護の申請同行のボランティアを希望する人は多いですよね。
松下:達成感があるしね。モチベーションというか、何を求めるかで違うんでしょうね。
牧野:わたしは、「なにかをやりたい」と思って〈もやい〉に来たわけではなく、貧困だったり社会問題だったりに対して、自分ひとりでは何もできないから、〈もやい〉という団体に入れば何かできるのではと期待して来たんです。〈もやい〉にボランティアとして携わることで貧困という問題に少しは取り組めている気持ちになれるというか…。
武笠:もやいに来て「自己責任」について認識が変わりましたか?
牧野:自己責任だと思うような人は一人もいませんでした。
はじめはいろいろ驚いた
武笠:来た最初のころは、いろいろ新鮮な驚きがあったようでしたね。
牧野:生活相談内部研修で寸劇があったんですが、会社の給料が未払いの人に対し、役所の人が、「まず会社で給料を貰って来てほしい」と言ったことに対し、私は、そりゃそうだよね、と思ったんです。ところが、正解は、「今、申請しているのですから(申請の要件を満たしているから)、今日申請を認めてください。」だった【※】。価値観を改める瞬間でした。〈もやい〉は新しい価値観を教えられる場所。今まで居た世界と違う価値観が新鮮でした。
※この研修では、劣悪な職場環境で体調を崩し、手持ち金がほとんどない状態になった人が相談に来たという設定でした。なお、生活保護を申請し、その後に未払いの給料が手に入った場合にはその分の保護費を返還するか、支給額を調整することになります。
武笠:そういえば最初の頃、未更新の連帯保証人の方のお宅を訪問して、廊下に設置されたシャワー置き場に驚いていましたよね。
牧野:工事現場の仮設トイレみたいなのが廊下にあって。殺伐としていて驚きました。
武笠:生活保護の申請については抵抗があったりしたことは?
牧野:それは全然なかったです。
ボランティアに来ている意味
松下:牧野さん、もやいでモヤモヤすることはないですか?
牧野:ない(きっぱり)。
松下:ないんだ(笑)
牧野:わりと切り替わっちゃうんですよね。後に残らないというか。
松下:ほー。
牧野:まだ友人の中にも自己責任論的なことを言う人もいます。以前の私もそうでしたし気持ちはわかります…。でも、そこはなるべく説明するようにしています。
武笠:説明しているんですか。私は、最初の頃は、いやいやそれは違いますよとか、なかなか言えませんでしたよ。
牧野:もしかしたら私がボランティアに来ている意味はそこだなと思います。身近な友人が以前の私と同じ考え方をしていたらそこは訂正できればと思います。
武笠:訂正。
牧野:はい。聞く耳を持たなそうな人には言いませんけど、誤った情報だけで判断しているかなって思うときは、そうじゃないよと伝えたいと思います。
武笠:例えば?
牧野:不正受給とか、確かにそういう人はいるけどごく一部ですよ、と。生活保護に至った理由も、努力が足りないというのではないですよ、とか。
武笠:お友達はどんな反応を?
牧野:意外と興味を持って真剣に聞いてくれていますよ。皆そうならないように、一生懸命生きていますから。高学歴の人もホームレスになるんだよ、というとびっくりされて。やっぱりそうなんだって。
武笠:そうなんですね。
牧野:世の中も、これではいけないって人は増えているのではないかと思います。ひとりひとりのみなさんは思いやりがあって優しいですから。誤解さえ解けば、協力してくださる方は多いのではないでしょうか。
〈もやい〉はできることが少ない?
武笠:結局〈もやい〉って、相談者や会員さんに対しても、おせっかいはあまりしない。当事者の思いを尊重するということは〈もやい〉の伝統ですが、これでいいのかなと思うときもあります。結局できることって少ないな…って思うときも、ある。
牧野:そうですね…。生活相談に入っているときに「〈もやい〉はできることが少ない」っていうフレーズを聞いたこともありますが、わたしは逆で。申請同行行ったときとても喜んでくださっていましたし、更新手続きでも、〈もやい〉に助けてもらってアパートに住めて、今、カレーが作れるようになったんですって聞いて…〈もやい〉っていいところだなって思いましたよ。
武笠:そうですか。少なくとも言い訳にしてはいけないですよね。
松下:私は、〈もやい〉にできることが少ないのではなく、そもそも、人が人にしてあげることが少ないと思っている。やっぱり本人がどうしたいかが大事だから。
武笠:うちの団体は大事にはしていますよね。本人がどうしたいか、を。
牧野:うーん。でも、むしろそこはモヤっとするところですね、判断[力]が落ちている状態の人に判断をゆだねるって実は厳しいんじゃないかな。いまはそれが〈もやい〉スタイルなんだなって納得していますが。納得しきれていないというか。
最後に
松下:最後に〈もやい〉でこうしていきたいっていうことはありますか。
牧野:いま活動には満足していますから、とくにないです。あえて言えば、自分の身近な人が誤解していればこれからも私の知るところを伝えていきたいです。
武笠&松下:そこに戻ってきましたか。
武笠:最初に湯浅さんの本を読んだときからぶれてないですよね。目的に向かって着々と歩を進めている。
牧野:がんこみたいですけど。
松下:いや芯が一本とおっていますよね。
松下:牧野さんは正攻法ですよね。わたしはもう、言葉では通じないと思っているのかな。感じ取ってくれればいいと思っている。
武笠:説得はしないけど、「この私を見ていてください」的な?
松下:以前、この世界を見たことがない人に説得するのってものすごく大変だったので、それを放棄してしまったところがあるんだけど、牧野さんが頑張っている姿を見て、これではいかんと思いました。
牧野:そうなんですか?自分が関わる中で考えが変わっていったので、自分と同じような人にアプローチしていけたらいいなと…(笑)。
武笠&松下:いいお話をうかがいました。今日はありがとうございました!
編集後記
普段打ち解けている間柄であることもあって、少し対談みたいになってしまいましたが、とても楽しいインタビューでした。今回のインタビューを通じ、牧野さんが湯浅さんの本を読んで以来、自己責任論の誤解を解きたいと決心し、以来その気持ちを持ち続けていることを知りました。牧野さん、これからもよろしくお願いします!