〈もやい〉が宅建免許を取得し、
住まいの仲介(住まい結び事業)をスタートさせたのが昨年5月。
まさに、あっという間に1年の時間が流れました。
始めてみたからこそ見えた現実、始めたからこそ見えてきた課題。
この1年を振り返ることで、〈もやい〉がこの事業を進める意義をあらためて考えてみます。
—1年間の取り組みを振り返って、まず思うことは?
まさに手探り状態だったこともあり、ほぼ広報はせずに事業をスタート。
まずは生活相談に来られた中で、ご自身でアパートを探すのが難しいと思われる方を
対象にと考えていましたが、その対応に終始する1年となりました。
—住まいに困難を抱える方が思った以上に多かった?
〈もやい〉に相談される方自体が変化していると感じます。
そして、メンタル的な課題も抱えている方が、
住まいのことも含めて具体的な相談をできる先が少ないなと…。
また首尾よくアパート入居を果たしても、その後の生活の安定のために繋げられる社会資源が、
高齢者を除くと、とても限られているとも感じます。
—女性の相談者が多いですね?
生活相談では女性が4割弱。それに比べて女性の割合が多いのは、
男性は「まず自分で探してみます!」という方が多いことなども影響しています。
相談が1回きりになるのも男性が多いです。
—ご高齢の方の相談が思いのほか少ないですね?
現状「生活相談」のみが入口になっていることが大きいですね。
60代以上で相談されている方はもともと連帯保証人などで〈もやい〉と繋がりがあった方が大半。
その他は行政機関や病院からの紹介で「緊急連絡先」の提供を受けるために来られた方などです。
少ない事例の中でも、大家さん、保証会社ともに
高齢者の入居にむけたハードルがさらに高いことを実感します。
立退き・取壊しになるアパートにお住いの方も多いですし、
〈もやい〉まで相談に来られない方がいることも考えると、
やはり今後の大きな課題と感じます。
—この1年で19名の方のアパート入居を仲介されました
相談を受ける際には「ご自身でも並行して探してください」とお伝えします。
〈もやい〉で探す場合、大家さん側の業者に、
例えば「50代の女性で●●を理由に生活保護を受給されている方です」と
内見の可否を照会しますが、それよりもご本人が「アパートを探してます」と
直接業者に依頼した方が入居に結びつくことも少なくないんです。
相談者のうち、〈もやい〉の仲介を経ずに入居された方が、
把握しているだけで20名近くおられます。
—他方で、ご自身で探されることの難しさもあらためて感じたとか?
最初の相談の際に「こんなに希望条件をちゃんと聞いてくれるなんて!」と言われる方が少なくないんです。
生活保護だって判ったとたんに、手元の物件チラシを下げられたという話はよく聴きます。
それに、営業担当は何とかしたいと思っても、本部のマニュアルで
“生活保護受給者お断り” になっていたり、
申込をして店長レベルの話になった途端に断られたというケースも実際にありました。
「生活保護受給者」ではなく「Aさん」自身を見て判断して欲しいと強く思います。
—〈もやい〉で探し始めてからも、その弊害があるとか…
「希望」を聞いてくれただけで十分、どんな物件でも良いから内見したい!という方が
少なからずおられます。「選ぶ・選べる」という環境にほとんどない、ということの表れだと感じます。
そういった方は、できるだけいろいろな物件にご案内するようにしています。
見たうえで話をして初めて、住まいのどこに実はこだわりがあるか、解るからです。
—これまでの「連帯保証」に続く打ち手として「住まい結び」はスタートしました
保証会社の利用が主流になったことは、「人間関係の貧困」の中で
どうアパート入居を実現するかという〈もやい〉の初期の課題からすれば
成果の一つだと思います。
ただ、保証会社の承認が下りない場合に〈もやい〉による保証を
全く検討してもらえず、アパートがなかなか見つからないケースも…。
さらなる打ち手が必要だと考えています。
—入居後のサポートにも取り組んでいるのですか?
入居直後に細かなご相談事もありますし、
その後も近隣関係等のご相談は少なくありませんが、
その多くは〈もやい〉の生活相談に繋いだり、
行政機関の窓口確認までは行ったりと、事業開始前と変わらない対応をしています。
交流事業の「コーヒー焙煎」作業に通い始めるなど、
事業を跨いで〈もやい〉の居場所に結びついた方も複数いらっしゃいます。
他方で、例えば高齢やメンタル的な課題をお持ちの方などについては、
事後的なサポートがセットになれば、入居のハードルが下がる可能性も感じます。
「誰が、どう担うのか」という難題はあるわけですが、予断を持たずに検討していきます。
—今後、特に2年目に向けてどんな取り組みをされますか?
ご相談に見える多くの方が、住まいを実際には「選べない」ものと捉えていると感じます。
住まいに求めるものは人それぞれですが、「住」は「衣食」とともに暮らしの基本であり、
「選べる」ことは人権的な観点からも大切なポイント。
入居者自身の抱える課題とともに、大家さんや不動産業者の不安や期待、
他方で社会課題となりつつある「空き家問題」、あるいは行政の担うべき役割も踏まえて、
より多くの方が住まいを「選べる」スキーム作りを進めたいと思います。
一人でも多くの相談者が自ら「選んで」実際にアパートに入居できることももちろん大切ですが、
そういったスキームを作ることこそが、〈もやい〉の、そして住まい結び事業のバリューであると考えています。(土田)
【住まい結び事業 取り組み概要】
◎相談者数 全80名
性別:女性36名/男性42名/その他2名
生活保護:受給中56名/受給予定5名
精神的な疾患あり:39名
年齢:平均47.8歳(18歳~80歳)◎仲介件数 全19件
所要:平均48.4日(6日~136日)
その一方で、初回相談から8カ月以上探し続けているものの、未だ物件と出逢えていない方も2名。