もやいでは、ボランティアに参加される方向けに「もやいセミナー」を月2回、無料で開催しています。今回は、こちらに参加してくださったエキタスのミヤナベさんが、またも力作のレポートを寄せてくださいました!
※エキタスのブログより転載。オリジナル記事はこちら。
もやいセミナーを「発見」
こんにちは。エキタスのミヤナベです。年始からはじめたエキタスの新企画BRIDGEの第2弾をお届けしたいと思います。
「雲と草の根の架け橋」だなんて大げさなことをブチ上げておきながら、1回だけボランティアに参加しておしまい!なんてことになればさすがに顰蹙ものです。かといって生まれながらの気分屋であるわたくしが、予約をしてから参加するような形のボランティアに遅刻せず、かつ、サボることなく参加できるのか?という疑問が沸き起こるのは、ごく自然なことです。向こうだって迷惑なことでしょう。
「ま、やめといたほうが無難かな…それよりその日の気分でどうとでもできるボランティアみたいなのはないだろうか?」とググってみたところ、ありました。
前回ふとんPに参加していた「認定NPO法人 自立生活サポートセンター・もやい」が「もやいセミナー」というのを開催しているのを発見したのです。
もやいでは、広く貧困問題に関心のある方、もやいでボランティア活動をしてみたい方を対象に、『もやいセミナー』を定期的に開催しています。
活動を通じて見えてきた日本の貧困について、スタッフが自身の体験を踏まえてお話しするセミナーです。
また、ボランティアとして参加する場合の、活動の始め方についてもご紹介します。
質疑応答を通して、現・日本社会の貧困について一緒に考えてみませんか?
昨今話題の生活保護問題などについてもお話しています。
『もやいセミナー』は定期的に開催しています。
少しでも関心を持っていただけたら、ご都合のよい日にお気軽にお越しください。
参加費無料だし、貧困問題についても勉強できそうだし、ボランティアについて教えてくれるみたいだし、予約も必要ないし、いろいろバッチリじゃないですか。でもセミナーという言葉を聞くと、ちょっと身構えてしまう部分があります。まさか自己開発セミナーとか、貧困脱出!金運UPネックレスを特別価格で売りつけられるみたいなやつだったらどうしよう…と一瞬頭をよぎらないでもありませんでしたが、前回のふとんP体験記がもやいの人たちにえらく好評だったらしく、直接顔を合わせればきっとたくさん褒めてもらえるに違いないというという誘惑には勝てず、参加してみることにしたのでした。
さて1.27 当日。19時スタートのセミナーに参加すべくちゃちゃっと仕事を終わらせ、夕飯をかっこみ、もやいの事務所へ。サイトにも書いてありますが、もやいの事務所の場所はめちゃくちゃわかりにくいです。何しろ住宅街の中にある、ふつうのマンションの一室なのですから、知らなければ素通り確実です。地図なしでたどり着くことはまず不可能。自分はGoogleマップ片手になんとかたどり着きました。
部屋に到着すると、ふとんPのときに少しお話した職員の方がPCとスクリーンでセミナーの準備をしているところでした。彼が今回の講師役のようです。聞くともやい職員の方が、毎回持ち回りで講師を担当しているとのことでした。代表理事の大西連さん(実は20代の若者)が担当することもあるとか。準備されていたプリントを数枚手にとって着席。先客は2人いて、学生っぽい人と落ち着いた雰囲気の方。両方とも女性です。この後だんだん増えてきて、最終的には自分も含め、8名の参加者がいらっしゃいました。男女比は半々で見た感じの年齢層もバラバラ。貧困問題やボランティア活動について、幅広い層からの関心があることが伺えます。
セミナーの内容は聞いてのお楽しみ的な要素もあると思うので、詳細な説明は避けたいと思いますが、派遣法改正にともなう雇用形態の変化や、ネットカフェ難民に年越し派遣村、生活保護を受給させないことを目的とした役所の水際作戦など、貧困にまつわる歴史や事柄がさまざまなエピソードを交えながら語られました。そしてそこにもやいの方々がどのように関わっていったのか。現在もやいの職員やボランティアにかかわっている人たちの中にも、以前もやいの支援を受けて生活を立て直し、現在こうした活動に携わっている方がいらっしゃるそうです。
ブラック企業で体験から
お話の中で印象にのこった言葉があります。「困窮している人は、自らの困窮した状態を説明できない」ということです。これは確かにそのとおりで、自分にも心当たりがあります。困窮していると精神的にも疲弊しますし、論理的な思考ができなくなります。そのため外に対して訴えることができずに内面化され、スティグマ化してしまうのです。生活保護受給者に対する世間の誤った知識にもとづくバッシングも、この傾向を助長します。
これはブラック企業で長時間労働をさせられているなど人にも、同じく当てはまることではないでしょうか。明らかに異常な状況に置かれているにもかかわらず、精神的にも肉体的にも疲労困憊しているため、正常な判断ができない。訴える先もないし、社内の他の労働者も似たような状況に置かれているため、これが普通なんだとあきらめてしまう。そのうち正常な判断力を失って、そのまま働き続けてしまうのです。
自分も似たような状況におかれたことががあります。ある職場で一緒に働いていた派遣の人が、経費削減のために契約打ち切りとなり、その分の業務のしわ寄せが正社員である自分にまわってきたのです。早朝から深夜まで働きずめで、一週間家に帰れず寝泊まりはネットカフェのリクライニングシートで仮眠するだけ。それでも全然終わらないので、日曜日には出勤して残務処理。社長にばれたらまずいからというので、出勤していない扱いにされていましたね。つまりは休日出勤のタダ働きです。
今の自分であれば、そうした状況から抜け出すための様々な知識がありますが、当時そんなことは頭の片隅にすらありませんでした。ただ仕事を終わらせないといけないと、それだけを考えていた気がします。そんなことを続けていれば当たり前なのですが、職場でぶっ倒れて救急車で搬送されてしまいました。風邪でもないのに熱が39度もあり、検査の結果、免疫力が落ちてすい臓がウイルス感染しているとの診断。しばらく療養したのち職場復帰しましたが、職場の環境が良くなる見込みもなく、また身体を壊すことが目に見えていましたので、結局その会社を退社することにしました。
スタンスの違いを超えて
話がわき道に逸れてしまいましたので、本題に戻ります。肝心のもやいのボランティア活動でどんなことをするのかというと、もやいに相談にきた人の話を聞いたり、必要がある場合は生活保護の申請に同行したり、ということをします。どちらの場合もいきなりひとりでやってもらうなんてことはなく、まずはベテランの方の補助役からスタートです。なるほど、それなら大丈夫そうだしちょっとやってみようかなと思った矢先、大きな問題にぶち当たりました。
上記の活動のためのオリエンテーションや活動そのものは、平日の昼に行われるというのです。そりゃ生活保護申請は役所にいかなければできないし、週末は役所は閉まっていますから、当たり前といえば当たり前のはなしなんですが…。自分は会社員なので、平日にこうした活動に参加するのはほぼ不可能です。
折角セミナー参加したけれど無駄足になっちゃったかな、残念…と思いきや、そこはさすがもやい。土日に参加できるもやいが関わっている活動や、他団体の活動もセミナーの中で紹介してくれたのでした。職員の方いわく、「もやいの活動に参加してくれればもちろん嬉しいけれど、スケジュールの都合でそれができない人は、ぜひ他のボランティア活動に参加してほしい。大切なのは関わっていくことです。」ということでした。その中で気になったものをいくつか。
- 新宿ごはんプラス:都庁前で、路上生活者や生活困窮者に無料でお弁当を配布したり、生活相談や健康相談を受け付ける活動です。週末に行なっているそうです。
- てのはし:池袋周辺で、毎月第2/第4土曜日の炊き出しや、毎週水曜日の夜回りを行なっています。これなら自分のような平日昼間は動けない会社員でも参加できますから、タイミングがあうときに一度足を運んでみたいなと思っています。
セミナーの最後は質疑応答です。参加者は貧困問題やボランティア活動に関心がある人たちですから、色々と具体的な質問があがります。その中で1つ、自分も気になるやりとりがありました。セミナー中に、大西連さんがある国会議員の貧困問題に関する国会質問の作成に協力した、というはなしがあったのですが、そのことについてです。
参加者「先ほど◎党の議員の方の質問作成に関わったというお話しがありましたが、もやいはその党を支持する団体なのですか?」
講師「いえ、特別にその政党だけというわけではなく、基本的には問題の解決のために、全ての政党に対して働きかけていきます。」
参加者「よかったです。それを聞いて安心して参加できます。」
というようなものです。これはSNSなどでよく取り上げらる問題でもあるのですが、デモなど路上で世間一般に対してアピールする活動と、実際にロビイングなどで相手と交渉して、事態の改善や譲歩を引き出さなければならないNPOの活動とのスタンスの違いに起因するものだと思います。(もちろん全てのデモやNPOがこのスタンスで活動しているわけではありませんが。)ですから時として、以下のような対立が生まれることがあります。
デモ参加者「NPOが立派な活動をしてるのはわかるけど、結局予算を取るために政府に近寄ることもある。それじゃ根本的にはなにもかわらないんじゃないの?本当にかえるためには政治をかえなきゃ!そのためには明確な政治的スタンスを打ち出すべきだ。」
NPO「目の前にすぐにでも支援を必要としている人たちがいる。政権交代で政治が変わるのを待っているわけにはいかない。例え政治的な意見を異にする相手に対しても、しっかりと交渉して事態の打開を図らなければならない。そのためには反~という打ち出しはせず、全ての政党や議員に対してアプローチできるというスタンスで活動していく。」
twitterでこんな感じの応酬をご覧になったことがある人も、少なからずいらっしゃるのではないでしょうか。こういう立場の違いがエスカレートしていくと、「NPOの活動なんてしょせんは政府に擦り寄る飼い犬だろ。」だとか、「デモは理想を叫ぶばかりで何もできない。無意味だ。」みたいなことになっちゃうわけです。できればこういう対立は避けたい。なんとかもっと雲と草の根がスムーズに協力して、連携して、自由に双方を行き来しながらやっていく方法はないものでしょうか?そのほうがずっと成果があがるはずです。
(もやい職員・加藤さんより補足:ちなみにもやいは、収入の8割が個人からの寄付、あとの2割は事業収入や民間団体・企業からの助成金などによります。行政からの委託などによる補助金はいっさいもらわないことをポリシーとしています。それは、行政に遠慮なくモノを言える団体でいるためです。)→いや~こんな硬派な方針を取りつつも、ちゃんと事業として成り立たせているのは並大抵じゃないですね。もやい、恐るべし…。
雲と草の根の活動に繋がる
自分はデモや抗議に参加してきた側の人間なので、ここでよくデモや抗議への参加呼びかけで使われていたフレーズを持ち出したいと思います。それは「頭数になろう」「集まって数の力を示そう」というものです。これって結局、草の根のボランティア活動でも同じことなんじゃないかと思っています。同じ方向を向いた人たちがたくさん集まって熱心に活動するようになれば、自然と方向性というものは形作られていくのではないでしょうか。そういう雲と草の根の間のお互いの行き来が充分ではなかったために、上記のような対立が生まれたのかもしれません。お互いがお互いの活動の重要性を認識できる機会を数多く持つことができるようになれば、その壁は乗り越えることができるのではないか、と思います。でもふとんPに参加してみて、そういう人は実はすでにいらっしゃることが分かりました。あとはそういう大きな流れを作り出せるかどうか、です。
もっと大きな話をすれば、そうした地道で地味な活動を活発にすることが、左派やリベラルの社会的な信頼度や重要性を引きあげることにも繋がりますし、ひいてはそれが下からの政治的な突き上げにもなります。
例えば、ある地区の問題のある問題に対しての要望を、その地区の住民の署名という形で集めることができるかもしれません。それを国会議員ではなく、もっと小さな範囲の区議会や市議会の議員に届けることができたとします。市議会議員や区議会議員は、自分の票田からの署名なのですから、その内容を無視することは難しいでしょう。うまくいけば熱心に問題解決のために取り組んでくれるかもしれませんね。そこに大規模なデモや抗議なんかがあって、マスコミが取り上げて社会的な注目が集まったりしたら完璧じゃないですか。雲と草の根の挟み撃ちになります。タイミングさえあえば、それぞれが別々に動くよりも大きな社会的効果があると思いませんか?
最低賃金時給15ドルを実現したアメリカのfightfor15 という社会運動は、そうした双方のやり方をうまく使っています。また川崎や銀座のアンチレイシズムの運動では、コリアンタウンや地元商店街などのコミュニティに入り込んで信頼関係を築き、相互理解を深めて一緒に行動し、問題解決に向かうという流れを既に実現しているのではないでしょうか。他の地域でも他の分野でも、やってできないことではないと思います。
ボランティア活動は地道に地味にやっていくものですから、大規模なデモのようにマスコミに取り上げられてパッと盛り上がるような種類のものではありません。でも前回参加してみてわかったんですが、非常に面白いし、やったあとに充実感があるんですよね。アメリカ人は休日を使ってボランティア活動に参加する人が非常に多いと聞いたことがありますが、じゃあアメリカ人に自己犠牲精神に富んだ慈悲深い人が多いのかというと、そういう話ではないと思うのです。個人主義的の国と言われるアメリカでそうした活動が盛んなのは、そうした活動に関わっていくことで、一面的でない社会の側面に接することができますし、社会に貢献し状況を改善し、1つ1つ問題を解決していくことで、個人的な充足感を得ることができるからではないでしょうか。しっかりとオーガナイズされ成果をあげているボランティア活動であれば、偽善だの意味ないだのといった揶揄が入り込む余地はありません。百聞は一見にしかずといいますので、ぜひ一度現場に足を運び、ご自身で経験してみることをお勧めしたいと思います。もやいをはじめとして、門を開いている団体は意外とたくさんあるものです。
また開かれたボランティア活動には色々な人が集まります。政治思想的に対立する人がいらっしゃるかもしれません。しかしそこに集まる人たちは、少なくともその問題に関心があり、なんとかしたいと行動に移した人たちです。そういう場は、自分とは意見が異なる人と継続的にコミュニケーションを取り続ける機会でもあります。ボランティア活動の本筋とは離れますが、そういう視点を持って話してみるのも面白いかもしれませんね。
では今回のレポートはここまで。最後にもう一度、もやいのセミナーのスケジュールを貼っておきますので、興味のあるかたはチェックしてみてください。