〈もやい〉の季刊紙「おもやい通信」2016年冬号より、大西連の巻頭言を転載します。
12月に入り、寒さが少しずつ骨身に染みるようになりました。〈もやい〉からも、年末年始にむけて、みなさまにご寄付のお願いをさせていただきます。毎度毎度で大変恐縮ではありますが、なにとぞ、よろしくお願いします。
また、今年も12月17日には〈もやい〉のクリスマスパーティーをおこないますので、ご参加可能な方はお待ちしております。さらに、本号の記事中にもありますが、現在〈もやい〉では、引っ越し準備の真っ最中です。同封のアンケートにもご協力いただけましたら、うれしいです。
みなさまと一緒に〈もやい〉をつくっていくことができればと思います。
生活保護削減の波
さて、先号のおもやい通信にも書きましたが、生活保護制度に関して、制度改正や基準の削減などの不穏な動きが見られます。9月以降、厚労省の社会保障審議会生活保護基準部会の傍聴を続けていますが、厚労省の審議会ではなく、今回、財務省の審議会で生活保護についての言及がありました。
10月27日におこなわれた財務省の財政制度分科会において、生活保護の加算について、特に母子加算(※母子加算とは母子[父子]家庭に対して、一部金額を上乗せして支給している費用のこと)削減をかなり前面に出した提言がありました。
内容としては、
- 就学児を抱えたひとり親世帯に対する加算・扶助を加味した生活保護水準は一般世帯(年収300万円未満)の消費実態と比べた時に高い水準となっている
- 母子加算がかつて廃止された同時期に学習支援費(教育扶助)等が創設され、子どもの学習経費等に係る支援がおこなわれているが平成21年に母子加算が復活している
- これだけの水準が毎月保障されていることで、就労にむかうインセンティブが削がれている可能性があるというものでした。上記の理由をもとに、母子加算について見直すべき、と結んでいます。
しかし、上記の認識にはいずれも大きな間違いがあります。
1. に関しては、財務省が根拠とする全国消費実態調査の「一般低所得世帯(年収300万円未満)の世帯における消費実態」が、生活費分を親(1人)と子ども(1.5人分)で約13万円としており、この基準自体が生活保護基準を下回る水準であり、そもそもの低所得者世帯の消費実態があまりにも少なすぎる、といえます。
2. については、学習支援費等がつくられたのは、母子加算の廃止と別の議論で、2005年以降に高校の授業料等が生活保護費のなかから支給(生業扶助)されるようになったことなどと合わせて、子どもの貧困対策、貧困の連鎖の防止の観点から整備されたものであり、母子加算の廃止や復活とはまったく関係がないものといえます。
3. については、生活保護基準部会等のデータによれば、生活保護利用中の母子家庭のお母さんには傷病・障がいをもっている方が約3 割いるなど、もともと就労が難しい方が多いことを無視したものです。
このように、データや過去の経緯を無視して、一人ひとりの生活に多大な影響を与えかねない制度改正の波が押し寄せようとしています。
厳しい冬ですが、私たちも声をしっかりあげていこうと思います。