※この文章は2013年~2014年の年末年始におこなった「ふとんで年越しプロジェクト」の報告書に掲載された文章です。アーカイブ的に以下にアップします。背景や状況等は、あくまで2014年の年始当時のものです。ご了承ください。
目次
「ふとんで年越しプロジェクト」結成の背景と概要
年末年始は「閉庁期間」といって、公的機関がお休みに入ってしまい、生活に困っても必要な制度を利用することが難しくなってしまいます。
それを受けて、毎年、例えば都内では、年末年始に生活困窮した人を支えるために、新宿・渋谷・池袋・山谷地域などの各地域で「越年・越冬」と呼ばれる、炊き出し(共同炊事)や夜回り、医療相談や生活相談などの、民間の支援団体による活動がおこなわれます。
しかし、2013年~2014年の年末年始は土日が重なり「閉庁期間」が、例年よりもはるかに長い「9日間」となってしまいました。
これだけ長い期間、「閉庁」によって公的な支援が利用できない状況になってしまうと、それこそ路上で凍死される人や餓死される人がでてもおかしくない、そういう危機感を持って、都内の各団体のメンバーが議論を重ね、一人でも多くの人がふとんで暖かくして年を越せるようにと、「ふとんで年越しプロジェクト(以下「ふとんP」)」を結成しました。
「ふとんP」の呼びかけに多くの団体が参加
「ふとんP」の結成にあたり、以下のメンバーによる呼びかけをおこない、約60ほどの支援団体の賛同を得て、政府に対して、年末年始の生活困窮者対策をおこなうように要望をおこないました。
【呼びかけ人(敬省略)】
- 代表 宇都宮健児(弁護士/前日弁連会長/反貧困ネットワーク代表)
- 稲葉剛(NPO法人自立生活サポートセンター・もやい/住まいの貧困に取り組むネットワーク)
- 岩田鐡夫(聖イグナチオ生活相談室/聖イグナチオ・カレーの会)
- 大西連(NPO法人自立生活サポートセンター・もやい/認定NPO法人世界の医療団)
- 黒岩大助(渋谷・野宿者の生存と生活をかちとる自由連合)
- 後閑一博(司法書士/ホームレス総合相談ネットワーク)
- 中村あずさ(NPO法人TENOHASI/認定NPO法人世界の医療団)
- 中村光男(山谷争議団/隅田川医療相談会)
政府に「年末年始の生活困窮者施策についての要望」を提出
12月2日に、厚労省の担当者と「ふとんP」メンバーとで意見交換をおこないました。政府も何らかの対策が必要なことは認めつつも、「年越し派遣村」の時のような特別な対策をおこなうかどうかについては、それは難しいという回答でした。その後、再度の交渉の機会を持ちましたが、生活保障や宿泊場所の確保などの対策は、政府主導の形では、結局おこなわれませんでした。
ふとんで年越しプロジェクトの概要
行政機関がやらないなら自分たちでやるしかない。都内の各団体が路上のニーズに合わせて連携し、インターネットを利用したクラウドファンディングという新しいお金の集め方にチャレンジしたりと、共同の取り組みを始めることにしました。主な取り組みとしては、
年末年始の「前」に支援につながる
12月25~27日までおこなわれた年末「拡大」相談会における医療相談・生活相談に参加。
共同シェルターの開設と運営
各地の「越年・越冬」の活動と連携し、生活相談・医療相談のメンバーを手配、派遣すると同時に、共同のシェルターを開設し、必要な方を保護しました。(詳細は後述)
年末年始期間、および年明け後のアフターフォロー
シェルター入所者等への年末年始期間中の訪問支援の他、アフターフォローとして、各団体と協力しながら、同行支援等をおこないました。(詳細は後述)
「ふとんP」の体制
山谷・新宿・渋谷・池袋のそれぞれの活動を後方支援するべく、「ふとんP」では、医師や看護師を中心とした医療相談チームとNPO等で生活相談に従事するメンバーを中心とした生活相談チームとが一緒になって、一つのチームによる相談体制を整備し、必要な人が宿泊できるための個室シェルターを約20部屋分用意し、年末年始期間の約10日間、運営しました。
相談の流れとしては、
- 各地の越年で医療福祉相談(越年団体に相談が寄せられる)
- ふとんPに連絡
- ふとんPで相談&シェルター受け入れ
- シェルター入所者への相談&医療者による訪問等
- 年明け後に生活保護申請等のアフターフォロー
- 継続的なフォロー
のような形で、約10日間、ふとんPは活動しました。
年末には渋谷の宮下公園で区による排除と公園の施錠がおこなわれるなど、路上を取り巻く厳しい情勢のなか、最終的には、約20人の方が「ふとんP」のシェルターに入所し、その後、各地で生活保護申請をしたり、実際に就職に結びついたりと、それぞれのニーズに合わせたお手伝いをおこないました。
ふとんで年越しプロジェクト相談者の概況
※個人情報等について本人に確認し了承をとれた方のみのデータをもとに作成しています。また、ディテールなど変えています。
相談者の概況
ふとんで年越しプロジェクトのシェルターには約20人の方が入所されました。年代としては、
- 30代以下 3人
- 40代 6人
- 50代 5人
- 60代 2人
- 70代以上 2人
で、平均年齢は46.2歳と比較的若く、いわゆる野宿者の平均年齢が59.3歳(平成24年度ホームレスの実態に関する全国調査)であることを考えると、住まいを失った生活困窮者の実情が国の定義の「ホームレス」だけでは不十分であることを如実にあらわしています。
相談者の事例紹介
A群 長期路上層
【40代】20代より路上生活。アルコール性肝炎による肝硬変&軽度知的障害の疑い。行政機関に対する抵抗感。集団生活で過去にトラブルがあり、制度利用に対してあきらめの気持ちあり。
【50代】 10年以上路上生活。軽度知的障害&アルコール依存。救急搬送され、治療が必要だが、本人病状をうまく説明されず路上に帰され、のちに別の身体疾患であることであることも判明。
B群 路上と支援をいききしている層
【30代】 重度のうつ&PTSD。薬物使用歴あり。家族関係・成育歴は暴力にさらされてきた。制度や支援団体を転々としているが、安定した生活を得る前に飛び出てしまい、将来の展望を描けない。
【50代】 統合失調症を10代のころより発症。病院受診ができていない。入院歴多数&自殺未遂複数回あり。複数人部屋は周りの目が気になるが、狭い部屋はパニック状態になる可能性がある。
【80代】 軽度認知症の可能性あり。直近20年ほど生活保護や路上を転々。支援に定着できないが、その間に身体疾患。
C群 不安定就労&不安定住居層
【30代】 難病あり。病気のため安定した職に就けず。アパートに住んでいたが騒音問題で退去、カプセル等(不安定住居)へ。派遣等転々も体調悪化。年末年始で日雇い労働がなくなり困窮。
【30代】 正社員として働いていたが、ギャンブルで借金を作り実家を出され、その後転々と。日雇い派遣&ネットカフェ宿泊。年末で仕事がなくなり生活困窮。
【40代】 派遣で就労中(月収18万円)だが、アパートを確保できずにネットカフェ生活。お金を盗られ困窮。年末年始は仕事ない。平日は仕事があるため役所にいけない。(仕事を休めない)。
【40代】 児童養護施設入所歴あり。派遣や新聞配達、飯場などの住み込みの仕事を転々。気分の落ち込みもあり不眠。生保歴もあるが常に住み込みの仕事に就き自立で、これまで安定せず。
ふとんで年越しプロジェクトの活動から見えてきたもの
相談者の特徴
「ふとんで年越しプロジェクト」への相談者の詳細に関しては、別途、アフターフォローでの状況も含めて、もう少し詳細な分析を試みたいと思っていますが、大きく分けて以下のような傾向がありました。
- 長期路上層(A群)
- 路上と支援を行き来している層(B群)
- 不安定就労&不安定住居層(C群)
- の3つに大きく分けられました。
A群の長期路上層は、病気や障害があって支援につながりづらい人や、行政機関への不信感を強く持っている人など、支援につながることが難しい人たちが含まれます。
B群の路上と支援を行き来している層に関しては、これも病気や障がいなどにより、支援につながってもうまくいかない、また、個室のシェルターや適切に金銭管理等の支援ををおこなえないなど、行政機関の用意できる支援では不十分であることによって「自分で失踪してしまう」と思われてしまう人たちが当てはまります。
C群の不安定就労&不安定住居層の人たちは、比較的若い人たちで、就労は可能でも同じく見えづらい病気(難病だったり発達障害だったり)を持っていたり、また、ネットカフェや脱法ハウスなど、不安定な住居で生活しながら、不安定な就労を転々としている人たちをあらわします。
路上をめぐる現況 政府の認識から
厚労省のホームレス概数調査によれば、平成15年に約25000人だったホームレスの人は、平成25年1月には約8000人に減少しています。しかし、平成24年度ホームレスの実態に関する全国調査報告書によれば、ホームレスの数は減少しているものの、その背後には、
- 生活困窮し居住の不安定さを抱える層が存在すること。
これらの層が何らかの屋根のある場所と路上を行き来している。 - との指摘があり、B群やC群の人など、政府の調査や定義では捕捉されない人たちが「ふとんP」に相談にきたことが良く分かります。
路上をめぐる現況 現場のデータから(新宿区生活福祉課統計資料より)
新宿区のホームレスの概数は162人(先述のホームレス概数調査:平成25年1月)ですが、新宿区福祉事務所へのホームレス等の方からの相談は9133件(平成24年度)となっています。(うち、相談のみが7449件、生活保護の申請受理が1684件)
新宿区が公表しているデータを見ても、政府の調査による「ホームレス」が「ホームレス状態の方」のほんの一部でしかないことがわかりますし、また、相談に来たものの制度につながる人の割合が非常に低いことから、本来制度を利用できる人が、窓口に訪れるも支援につながれない状況にあるということがわかります。これは、水際作戦と呼ばれる、窓口での不当な相談対応の可能性もありますし、相談者の困難さに福祉行政が対応できていないという問題があるかもしれません。
政府のホームレス問題への方針
政府も2013年「ホームレスの自立の支援等に関する基本方針」によれば、
- 固定・定着化が進む高齢層に対する支援
- 再路上化への対応
- 若年層に対する支援
- が必要としています。この3分類は、「ふとんP」の相談者を3分類したものと合致しています。
ふとんPの事例紹介のように、実際の相談では、病気や障害など、さまざまな困難さをともなった人が多く、すぐさま就労というよりは、医療福祉的なサポートや、安定した住まいの提供などの支援が必要な人が多くいました。一方で、既存の制度では、例えば、路上生活者のための自立支援センターなどは、そもそもが、就職活動をおこなうための制度となっています。また、2015年からスタートする予定の「生活困窮者自立支援法」による各事業も、基本的には稼働できるか/できないかによる「就労ベース」での制度となっています。
政府や自治体に要望したいこと
「ふとんで年越しプロジェクト」の活動により、さまざまな困難さをもった人に対応するためには、個室の緊急シェルターや、専門家チームによる医療福祉支援、住み込みでない就労支援のニーズなどの必要性が見えてきました。
見えにくい困難さを抱えた先述のA群やB群のような人を、既存の就労ありきの「ワークファースト」型の支援のメニューでは、支えられないことは明らかです。また、同じく、C群の人たちのように、脱法ハウス問題や寮付派遣などの困窮予備軍の人たちは、既存の支援のメニューでは「自立している」とされ、そもそもが制度に捕捉されていません。
私たちは、政府や自治体に対して、
- 年末年始期間や、夜間休日などの閉庁期間中であっても、生活保護申請を受理し、公的機関の都合により制度利用の狭間がうまれないように、必要な生活保障を担保すること。
- 就労中などの状況の人に対して、例えば週1回など夜21時までなどの、時間外の相談窓口を設置すること。
住まいを失った人への個室シェルターや、早期のアパート入居への支援の整備をおこなうこと。 - これらを踏まえた上で、「就労自立」という前提の支援施策から「就労&住居自立」という「ハウジングファースト」的な発想の施策に転換していく必要があります。
年末年始の「緊急事態」は無事に終わりましたが、路上をとりまく状況やニーズは、年間を通じて変わりません。今回、「ふとんP」の活動によって見えてきたものを分析し、国や自治体に対しても声を上げていきたいと思っています。