『朝日新聞』2015年7月20日朝刊「貸主の連合会、物件を紹介 生活保護の受給者、住まい借りやすく」に、もやい理事・稲葉剛のコメントが掲載されました。
賃貸住宅の家主がつくる民間団体が、生活保護を受ける人が入居できる空き物件を全国的に集約し、紹介する窓口を作ることを決めた。家賃滞納などを懸念する家主が契約を結ばず、簡易宿泊所で暮らす人がいるためだ。川崎市の簡易宿泊所の火災を受けた取り組みで、約20万件の情報提供をめざす。
生活保護を受給する東京都の80代男性はアパートが取り壊されることになり、不動産店を回ったが、高齢を理由に10回ほど断られた。やっと見つけた物件の連帯保証人確約書には、孤独死を想定し、「部屋の原状回復に莫大(ばくだい)な費用が掛かります」と記されていた。
連帯保証人は認定NPO法人「自立生活サポートセンター・もやい」が引き受けた。稲葉剛理事(46)は「この契約内容なら一般の人は(連帯保証人になることを)躊躇(ちゅうちょ)せざるを得ない。高齢の生活保護受給者のアパート入居のハードルは年々上がっている」と話す。
生活保護受給者が賃貸住宅に入居しようとしても、家主は(1)家賃の滞納(2)緊急連絡先や保証人の確保(3)孤独死した場合のリフォーム費の負担、への懸念から契約しない場合がある。受給者が自治体に相談しても「特定の業者に肩入れできない」と斡旋(あっせん)されないことが大半だという。
稲葉理事は「自治体から簡易宿泊所をほのめかされ、そのまま暮らす場合もある」と話す。厚生労働省によると、簡易宿泊所は1室の床面積が平均6平方メートルで、健康で文化的に暮らすため必要とする最低居住面積水準(25平方メートル)を下回る。耐火性に劣る場合もあり、5月に起きた川崎市の簡易宿泊所火災では10人が死亡した。
■全国の情報集約
こうした状況から、全国約1万6千の家主が加盟する「全国賃貸住宅経営者協会連合会」は、生活保護受給者が入居できる空き物件を紹介することを決めた。17日から家主に協力を呼びかけている。家賃滞納を避けるため、生活保護費から家賃を家主に直接支払う「代理納付制度」があることも伝える。
当面は42万の空き物件を登録する連合会のデータベースを活用し、最終的に家主の意向を反映した20万件の情報提供を目指す。連合会の川口雄一郎会長(62)は「空き室を解消し、家賃収入を確保するメリットが家主にもある」と語る。
国土交通省や厚労省は自治体に対し、生活保護受給者が相談に来たら連合会への問い合わせを勧める通知を出す。生活保護を受けるのは4月時点で162万924世帯(216万3414人)で、約半数が高齢者世帯。国交省は「全国レベルで生活保護受給者に物件を紹介する仕組みは初めて」としている。
連合会の取り組みについて、反貧困ネットワークあいちの藤井克彦・共同代表(72)は「住居探しの選択肢が増える。どう活用させるかが大切」と話す。
(峯俊一平)