『東京新聞』2015年6月18日朝刊「『怖いけど ついのすみか』 川崎・簡易宿泊所火災1カ月ルポ」に、もやい理事・稲葉剛のコメントが掲載されました。
10人が死亡した川崎市川崎区の簡易宿泊所(簡宿)火災から17日で1カ月。簡宿は、高齢の生活保護受給者の最後のトリデとなっている。現場を歩くと、身寄りのない「住人」たちは「火事は怖いが、ほかに居場所がない」と口をそろえた。対策はあるのか。困窮者を支援するNPO法人「自立生活サポートセンター・もやい」の稲葉剛さん(45)は、民間アパートの借り上げによる公営住宅の拡充などを提案している。
今月十日、東京・霞が関の厚生労働省。稲葉さんは「もやい」の仲間とともに、担当者に「困窮と住宅問題を統一的に議論してほしい」と申し入れた。
「過去に起きた類似の火災の際も要望したが、建物は国土交通省、生活保護は厚労省の管轄となるため、有効な対策が打ち出せていない。根本的な解決策がないまま悲劇が繰り返されている」。要望の後、稲葉さんは記者に強調した。
稲葉さんが、ある契約書類を見せてくれた。「もやい」が法人として高齢者の保証人となった際に大家交わしたものだ。「(孤独死した場合は)部屋全体の原状回復を行わなければならず、相応の費用をご負担いただくことになります」との一文が明記されていた。これでは、一般の人は二の足を踏むだろう。
中には受給者を受け入れる「福祉可」という物件もあるが、「建物が老朽化していることが多く、住環境が良いとは言えない」(稲葉さん)。こうなると選択肢は簡宿などに限定されてる。
では、どうするべきなのか。稲葉さんは以前から「自治体が民間アパートを借り上げる形の公営住宅を増やし、さらに公的な入居保証制度を導入することで、アパートが借りやすくなる。空き家対策として、民家への入居を促す方法もある」と唱えてきた。
稲葉さんは「通知を出すだけでなく、今こそ、困窮高齢者の住宅対策を一から話し合うべきだ。(簡宿の利用者は)これまでの住宅政策の不備によって『ここでいい』と思わされてしまっている。住宅政策の不備をこれ以上押しつけてはいけない」と訴える。